【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 そんな私をからかうように彼がのどを鳴らす。口調が少し柔らかくなって、楽し気で、それにすら私は浮かれてしまう。

「表情コロコロ変えて忙しいやつだね」

「そ、そういうあなたは全然変わらないんですね」

「まあお前と違って子供じゃないから」

「お前じゃなくてゆきのって名前があります」

「ゆきの……」

 彼の名前もきいてみようと思ったのに目が合った瞬間、射止められたような気がして言葉がでてこない。

 涙は一筋もこぼれていないのに彼の痛みが伝わってくる気がした。氷のように
冷たい目はなにより寂しくてかなしくて。

「これあなたにあげる。お母さんからもらった私の宝物なの。どんなことがあってもこれを覗くと世界って輝いているんだって安心するの」

 私は自分のネックレスを差し出した。

「万華鏡?」

 私がなかをのぞくよう押すと彼は受けとって指先で転がしながら覗いた。

「……きれいだな。まるで魔法の絨毯だ」

 魔法の絨毯、そう彼が例えてくれたのがすごくうれしかった。キラキラと輝いてどこにでもいける万華鏡はたしかに魔法の絨毯だ。彼がこれを覗いたときに幸せな気持ちになってくれたら、笑ってくれたらどんなにうれしいだろう。

「でももらえない。宝物なんだろ?」

「ううん。私はもういいの。あなたに笑ってほしい、だからもっていてほしいの」
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