【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 そのときの私は目の前で座り込んだ少年の目が輝く瞬間のほうがよっぽどきれいに思えた。
 彼は少し困ったような顔で少し考えるしぐさをする。

「じゃあ借りるよ。必ず返しに行くから」

「ちなみに俺もあなたじゃないんだ。俺の名前は――」

 あのとき聞いた名前がずっと思い出せずにいた。そして名前を聞いたことすら15年という長い年月で忘れてしまっていた。それを今、思い出した。


「……これ、十五年前、ここで出会った少年にあげたんです。とても寂しい眼をしていて、それが私も寂しくて、どうにか笑って欲しくて……」

「うん。笑ってって言われたよ。小さな手を差し出して……自分だって迷子で不安なはずなのに年上の俺の心配ばかりして」

 そうだ。お母さんとはぐれて泣きそうになっていたはずなのに、怒鳴る声が聞こえて振り返ったら少年が倒れていた。誰も彼に手を差し伸べなくて、彼もそれを拒んでいるようにみえて。日差しが痛いくらいだったのに、遠目にも冷え切った瞳が分かって、怖くて、母とはぐれたことより不安になって。気付けば手を差し伸べていた。

「誠さん……本当に………」

 誠さんがあの夢で何度も会った少年だというの。そんな奇跡が本当に。

「ああ。そうだよ。俺はあの日、ゆきのに救われたんだ」
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