【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 誠さんが先陣をきって企画した九条リゾートの新ホテルはオープンしてすぐに、今でも3年先まで予約が埋まっている大盛況となった。
 雑誌で取り上げられるほど有名になった健二くんのつくる春限定の和菓子はこの桜からイメージしているのだと聞いている。

「うちのスタッフとして働きたくてうずうずしてるって顔だね」

 私の心情を読む誠さんが隣でふっと笑った。この人は年々更に和菓子より甘く、そして色気が滲み出ている気がする。

「誠さんをたきつける冗談だと思ってました?」

 私も笑い返す。この笑い方が誠さんに似ていると最近周りの人によく言われるけれど、誠さんは逆に私の笑い方に似ていると言われるらしい。……夫婦って似るのかもしれない。

「ママー! パパー! はやくー!」

 舞い散る桜のなか、まだ幼い愛娘が藤さんと並んで小さな手を懸命に振っている。
 その小さな体にはまだ大きく見える万華鏡のネックレス。
 手を振り返して、早歩きになった私よりも先に、私の手を引いたのは誠さんだった。

「愛しい妻と娘、両手に花とはこのことだな」

 子供以上に子供みたいな表情で、無邪気に笑った彼は幸せそのもので。
 舞い散る桜のように降り注ぐ多幸感に、私は視界が滲んで、仕方なかった。



 終


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