【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 父は私も妹も分け隔てなく愛してくれた。大好きだった。
 そんな父の護ってきた宇野堂の技術、味、そして心が姿形を変えることになっても存続することができるか。その瀬戸際にいる。それも、私の判断ひとつで。

 ――荷が重い? ううん、これは神様が与えてくれたチャンス。私一人ではどうにもできなかったのだから。

「なあ、ゆきの」

 健二くんに声をかけられて、ハッと我に返る。

「本当にコイツと……九条誠と結婚していいんだな。今ならまだ引き返せるぞ」

 普段、からかってばかりのくせに、今日は真面目な顔ばかりする。
 なんだか、調子が狂う。いつも通りふざけてくれていいのに。
 健二くんは根が優しいから、私が政略結婚させられる可哀想な妹のように見えるのだろう。なら、妹としていえることは一つだ。できるだけ明るい声で、笑顔で。

「――うん」

 我ながら不安を一切感じさせない声色だったと思う。顔も多分引きつってない。

「わかった……幸せになれよ。ゆきの」

 健二くんは少し間をあけて、少し不安げに笑ってくれた。
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