【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 助手席から彼の方に頭を下げる。するとすぐに頭にぽん、と手が置かれたのが分かった。

「顔をあげてくれ。俺も大人げなかった」

 顔を上げられない私の顎を、長い指が器用に捉えて引き上げる。

「うん……そうだな、少し妬けたよ」

 視線だけをこちらに向けた彼と目が合う。微かに拗ねたような瞳。

「私……誠さんのお役に立ちたかったんです。九条リゾートで提供するかもしれない試作の試食ができるって聞いて嬉しくて……誠さんの婚約者としてもっと慎重に行動すべきでした」

 無意識に嚙み締めた唇に彼の指が割って入る。

「ゆきのの行動を制限したいわけじゃないんだ。俺との婚約をそう重く捉えなくていい……ただゆきのは誰にでも優しいから不安になってしまってね、すまない」

 彼に謝られて、謝るべきなのは私のほうですと言いたいのに唇と前歯の間に指が押し入れられているから喋られない。彼はそんな私にふっと微笑んで「もうこの話はやめにしよう」と言い切る。私がこれ以上謝らなくていいように気を遣ってくれたのだろう。
 優しいのは私じゃない。彼の方だ。

 彼は婚約を重く捉えなくてもいいと言っていたけれど、これからはまず、誠さんの婚約者としてどうあるべきなのかを考えて行動しよう。それは彼に心配をかけたくない私のためだ。そう決意してコクコクと頷くと、ようやく彼の指が唇から抜けた。
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