【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 心臓がズキッと痛む。自惚れていた。あんなふうに砕けた彼の表情をみられるのは自分だけだと思っていたから。
 今日のパーティーで女性は数えられる程度だった。奥様だと紹介された方の中にもあの人はいなかった。今日のパーティーの出席者ではなくて、わざわざ誠さんに会いに来たということなのだろうか。

 もしかして、あの人が誠さんの思い出の中にいる「彼女」なの?
 彼女が乗った車が走り出した音につられて顔をあげると、目の前には誠さんの車を見つけた。気がつくと私は、まるで隠れるように車に乗り込んでいた。

 ――さっきの女性は、誰ですか?

 その一言が聞けないまま、誠さんの愛車の助手席で私は自分の足下に視線を落とす。
 誠さんからいただいたパンプスはドレスと同じ色の落ち着いたダスティピンクで、よくみるとパールのような光沢を放っていて暗い車内でキラキラと輝いている。

 見た目が美しいことはもちろん、ヒールは高いのに長時間立っていても全然足が痛くならなかった。最初のデートの時のように靴擦れも一切ない。やっぱりいい靴は違うんだなあ、なんて現実逃避をしていると、運転席からくすりと「気に入ってもらえたかな」と声が聞こえた。

「それにしても、パーティーで席の移動を提案してくれてありがとう。俺から言ってもいつも断られてしまってね……あの方は腰が悪いから助かったよ」
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