【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
「あ、いえそんな……よかったです。今日少しでもお役に立てたなら……」

 せめてなにか一つでも役に立ちたい。そう思って参加を決めて自分なりの最善を尽くした。だから誠さんにそういってもらえて嬉しい。
 ちょっと打算的な言い方だったかもしれないけれど、私が座りたいと提案すれば断られないだろうと思った。……思い返してみれば、少しだけ誠さんの言い方に似ていた気がする。

「あのあと会長にこっそりゆきのの言い方が俺みたいだって言われたよ」

「……それ、今私も思ってました」

「夫婦になるから似てくるのかもしれないね……とはいえ俺は今のゆきのが好きだから悩みどころだな」

 さらっと言われた「夫婦」という単語と甘い言葉に顔が熱くなる。この人はこうやって人を黙らせるのも上手だ。
 今なら聞けるかもしれない。そう思って口を開くと、誠さんが言葉を続けた。

「奥様と呼ばれているゆきのをみて、早くゆきのと本当に夫婦になりたいと思ったよ」

 顔を正面に向けたままかけられた優しい声に、私の追求は飲み込まれる。
 だめ。聞けない。私は顔を背けた。

 ――私は、ずるい。さっきの彼女を見なかったことにしようとしている。真実を聞いてしまえばき
っと誠さんと一緒にいられなくなってしまうから。それが怖いから。

 目を硬く瞑って、決心する。彼の隣にいるために、気付かないふりをしよう。
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