【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
「お店がなくなっちゃうのは残念だけど、九条さんの計らいで、宇野堂から一人職人さんの……そうそうアナタも仲のいい健二くんって子を雇ってくれるみたいなのよ」

 初耳だった。健二くんは宇野堂の和菓子職人のなかでは一番若手で、私より4歳年上の28歳だ。彼が高校生になる頃この近辺に引っ越して来てそれ以来の付き合いになる。
 私にとっては兄のような存在で、実は父が前々から宇野堂を継いで欲しいと溢していた相手でもある。嬉しい、その気持ちと同じくらい健二くんの重荷になっていないか心配になる。

「その人が宇野堂の技術はしっかり受け継いでくれたって話よ。……と、いってもゆきのちゃん次第みたいなんだけど。ゆきのちゃんには悪いけど、結婚一つでお父さんの護ってきたものも、妹のきららちゃんのことも面倒みてもらえるのよ」

 つまり、宇野堂から健二くんが九条さんの会社に引き抜かれていて、妹のきららの面倒もみてくれることになっている。そしてそれらは私と彼の結婚にかかっているということ。
 ここで結婚しない、なんて選択肢は引き抜かれた健二くんと妹の人生を狂わせることになる。私の我が儘ひとつに、少なくとも二人の運命がかかっているのだ。
 先程彼の言っていた『政略結婚』の意味を漸く理解する。
 あまりの重さに、喉がひゅっと鳴る。

「あとで……お父さんのエンディングノート、ちゃんと読んでみます」
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