【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
 きららが膝の上で拳を握る。震えた手に自分の手を重ねた。

「……ごめんね、きららにそんなこと言わせて」

 彼はきっと、そんな冷たい人じゃない。妻としてそう否定すべきなのにできないのは、私が否定できるほど彼のことを知らないからだ。

 それに誠さんが「誰か」を語る時の慈しむような瞳や声色を私は知ってしまったから。

「なあっ、聞いてくれ、俺から話すから。アイツのこと」

 健二くんが焦ったように声を上げた。健二くんは明らかに私より誠さんのことを知っている。中学時代からの友人としての顔、そしてインターネットに乗っていない九条リゾートの副社長であり御曹司の顔、もしかしたら「彼女」の前での顔も知ることができるのかもしれない。――でも、それは私が誠さんから直接聞くべきことだ。
 私は健二くんににこりと笑いかけた。

「ううん。もう又聞きはしたくないの。ただ待っているのももう終わりにする」

 最初のデートの日から、誠さんからの連絡をただ待っているだけだった一ヶ月間。他の人が自分の知らない誠さんを語る度もやもやした気持ちになるのにそれについて自分から尋ねることをしなかったこと。反省点はいくらでもある。
 私はきららと健二くんを見やった。二人とも心配そうに私を見つめ返してくれる、優しい妹と友達。私にとって大切なふたり。
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