騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!
第10話「貴女って本当に押しが強いわね」
庭園、農場付きの広大な敷地、3階建ての巨大な本館を有するラパン修道院は、
修道院長など役職が上の者以外にも、シスター、職員全員に個室が与えられていた。
花嫁修業、行儀見習いに来る女子も同様である。
という事で、修道院長との打合せを終え……
花嫁修業中の見習いシスター、ロゼールは与えられた『自室』へ戻る廊下を歩いていた。
騎士として鍛錬を積んだロゼールは、体力、運動神経だけでなく、
五感も研ぎ澄まされていた。
……自分の部屋に他人の気配があるのを感じ、怪訝そうな表情をする。
誰だろうか?
大体、予想はつくのだが……
ロゼールは軽く息を吐き、扉のノブをがちゃりと回し、引っ張り、開けた。
やはりというか……
中には、ベアトリスがカップで飲み物を飲んでいた。
ロゼールを見て、「待ち人来たり!」という雰囲気で、嬉しそうに微笑む。
「うふふ、おっつう!」
お疲れ様と、ベアトリスからフレンドリーに言われても……
困惑したロゼールは渋い表情である。
「ベアトリス様! おっつうじゃないです。なぜ居るのですか? ここは私の部屋ですよ。それに紅茶も勝手に飲んでいませんか?」
「まあまあ、そう固い事を言わないの。お礼に私が紅茶を淹れてあげるから」
「……ベアトリス様がお礼? 直々に? ……後が怖いから遠慮します」
「はあ? ロゼったら、何、言ってるの? ここでは身分に関係なく、自分の事は自分でやる! でしょ。使用人なんか居ないんだから」
「だからこそ……です。紅茶を淹れるのは自分でやりますよ」
「いいから、ロゼ! 貴女の紅茶を貰った、ささやかなお礼なんだから!」
「はあ……そこまでおっしゃるのなら」
……意外にも? ベアトリスは紅茶を淹れる手際が良かった。
魔導ポットの熱いお湯でカップを温めてから、新しい茶葉をポットへ、
流れるような動作で、適温の紅茶を淹れた。
「へえ、お上手ですね」
ロゼールが褒めると、ベアトリスは満更でもないという表情になる。
「うふふ、教育係のシスター、ジスレーヌから丁寧に教えて貰ったから……私、結構、覚えは早いのよ」
「はあ、羨ましい限りです」
「ロゼだって、家事全般、そこそこいい線行ってるじゃない。充分、合格点だと思うわよ」
「いえ、ベアトリス様。どうせ習得するのなら、全てを極めたいと思っていますから」
「全てを極めたい? はあ~……ロゼは完璧主義なのね」
「ええ……そんなもんです」
「まあ、良いわ。それで、修道院長との打合せは上手く行ったの?」
「ええ、何とか、折り合いは付きそうですよ」
「そう……でも、こういう答えは曖昧なのよね~。万全ですとか、バッチリですとかきっぱりと言い切らないんだ」
「はあ、慎み深いのは美徳だと思っていますから」
「それ、慎み深いとは、違うと思うけど……まあ、良いわ。報告して頂戴」
「いえ、話すと長くなりますから……それに、そろそろ就寝時間ですし」
「簡単で構わないから」
「分かりました……では、お話しします」
そろそろ当番のシスターが就寝時間を告げに来る。
夜更かししていると、叱られてしまう。
ロゼールは、かいつまんで、修道院長とのやりとりを報告したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……ロゼールの報告が終わった。
まもなく就寝時間である。
「へえ! お礼まで丁寧に言ってくれたの? 凄いじゃない!」
「いえ、あの方なら、誠意を持って、話せば分かってくださると、私は確信していましたので」
「うふふ、成る程。それで、シスターと職員へ聞き取りをして、それをとりまとめて、私とロゼで精査。意見の出元は、クレームやトラブルを避ける為、無記名という形で修道院長へ提出。検討して貰うというわけね」
「はい、検討し、決定していくにあたっては、公開性をアピールして、ベアトリス様、修道院長様、私以外にも、数名シスターを入れ、場の全員で意見交換する会議形式で行くべきかと思います」
「ふううん……ロゼの考えはごもっともだと思うけど、それだと『船頭多くして船山に上る』状態になり、いろいろな意見が飛び交った挙句、紛糾するんじゃない?」
「はい、その可能性はゼロではありません。なので、進行と、とりまとめをベアトリス様にお願いしたいと思います」
「え~!? 私が? めんどくさい!」
「そういう事をおっしゃらないでください。ベアトリス様が大きな権限をお持ちになり、この修道院へいらした事は、全員が知っています。改革をするにあたり、かじ取りをして頂くのは責務です」
きっぱりと正論をロゼールに言われ……
「う~……分かったわよ。やれば良いんでしょ!」
「はい! お願い致します」
と、にっこり笑顔のロゼール。
「ロゼ、貴女って本当に押しが強いわね」
ベアトリスが言葉を戻すと、ロゼールは、
「はい、強い女子を煙たがる騎士隊の男子達とやり合って来ましたから!」
と、きっぱり言い切った。
「うふふ、そうよね。分かるわ……私もよ」
ベアトリスが同意し、ふたりが笑顔で頷き合った時。
扉の向こうから……
「就寝時間ですよ~!」
という当番のシスターの声が聞こえて来た。
その声を聞き、悪戯っぽく笑ったベアトリス。
「じゃあね! ロゼ、お休み!」
と言い、扉を開け、するりと出て行ったのである。
修道院長など役職が上の者以外にも、シスター、職員全員に個室が与えられていた。
花嫁修業、行儀見習いに来る女子も同様である。
という事で、修道院長との打合せを終え……
花嫁修業中の見習いシスター、ロゼールは与えられた『自室』へ戻る廊下を歩いていた。
騎士として鍛錬を積んだロゼールは、体力、運動神経だけでなく、
五感も研ぎ澄まされていた。
……自分の部屋に他人の気配があるのを感じ、怪訝そうな表情をする。
誰だろうか?
大体、予想はつくのだが……
ロゼールは軽く息を吐き、扉のノブをがちゃりと回し、引っ張り、開けた。
やはりというか……
中には、ベアトリスがカップで飲み物を飲んでいた。
ロゼールを見て、「待ち人来たり!」という雰囲気で、嬉しそうに微笑む。
「うふふ、おっつう!」
お疲れ様と、ベアトリスからフレンドリーに言われても……
困惑したロゼールは渋い表情である。
「ベアトリス様! おっつうじゃないです。なぜ居るのですか? ここは私の部屋ですよ。それに紅茶も勝手に飲んでいませんか?」
「まあまあ、そう固い事を言わないの。お礼に私が紅茶を淹れてあげるから」
「……ベアトリス様がお礼? 直々に? ……後が怖いから遠慮します」
「はあ? ロゼったら、何、言ってるの? ここでは身分に関係なく、自分の事は自分でやる! でしょ。使用人なんか居ないんだから」
「だからこそ……です。紅茶を淹れるのは自分でやりますよ」
「いいから、ロゼ! 貴女の紅茶を貰った、ささやかなお礼なんだから!」
「はあ……そこまでおっしゃるのなら」
……意外にも? ベアトリスは紅茶を淹れる手際が良かった。
魔導ポットの熱いお湯でカップを温めてから、新しい茶葉をポットへ、
流れるような動作で、適温の紅茶を淹れた。
「へえ、お上手ですね」
ロゼールが褒めると、ベアトリスは満更でもないという表情になる。
「うふふ、教育係のシスター、ジスレーヌから丁寧に教えて貰ったから……私、結構、覚えは早いのよ」
「はあ、羨ましい限りです」
「ロゼだって、家事全般、そこそこいい線行ってるじゃない。充分、合格点だと思うわよ」
「いえ、ベアトリス様。どうせ習得するのなら、全てを極めたいと思っていますから」
「全てを極めたい? はあ~……ロゼは完璧主義なのね」
「ええ……そんなもんです」
「まあ、良いわ。それで、修道院長との打合せは上手く行ったの?」
「ええ、何とか、折り合いは付きそうですよ」
「そう……でも、こういう答えは曖昧なのよね~。万全ですとか、バッチリですとかきっぱりと言い切らないんだ」
「はあ、慎み深いのは美徳だと思っていますから」
「それ、慎み深いとは、違うと思うけど……まあ、良いわ。報告して頂戴」
「いえ、話すと長くなりますから……それに、そろそろ就寝時間ですし」
「簡単で構わないから」
「分かりました……では、お話しします」
そろそろ当番のシスターが就寝時間を告げに来る。
夜更かししていると、叱られてしまう。
ロゼールは、かいつまんで、修道院長とのやりとりを報告したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……ロゼールの報告が終わった。
まもなく就寝時間である。
「へえ! お礼まで丁寧に言ってくれたの? 凄いじゃない!」
「いえ、あの方なら、誠意を持って、話せば分かってくださると、私は確信していましたので」
「うふふ、成る程。それで、シスターと職員へ聞き取りをして、それをとりまとめて、私とロゼで精査。意見の出元は、クレームやトラブルを避ける為、無記名という形で修道院長へ提出。検討して貰うというわけね」
「はい、検討し、決定していくにあたっては、公開性をアピールして、ベアトリス様、修道院長様、私以外にも、数名シスターを入れ、場の全員で意見交換する会議形式で行くべきかと思います」
「ふううん……ロゼの考えはごもっともだと思うけど、それだと『船頭多くして船山に上る』状態になり、いろいろな意見が飛び交った挙句、紛糾するんじゃない?」
「はい、その可能性はゼロではありません。なので、進行と、とりまとめをベアトリス様にお願いしたいと思います」
「え~!? 私が? めんどくさい!」
「そういう事をおっしゃらないでください。ベアトリス様が大きな権限をお持ちになり、この修道院へいらした事は、全員が知っています。改革をするにあたり、かじ取りをして頂くのは責務です」
きっぱりと正論をロゼールに言われ……
「う~……分かったわよ。やれば良いんでしょ!」
「はい! お願い致します」
と、にっこり笑顔のロゼール。
「ロゼ、貴女って本当に押しが強いわね」
ベアトリスが言葉を戻すと、ロゼールは、
「はい、強い女子を煙たがる騎士隊の男子達とやり合って来ましたから!」
と、きっぱり言い切った。
「うふふ、そうよね。分かるわ……私もよ」
ベアトリスが同意し、ふたりが笑顔で頷き合った時。
扉の向こうから……
「就寝時間ですよ~!」
という当番のシスターの声が聞こえて来た。
その声を聞き、悪戯っぽく笑ったベアトリス。
「じゃあね! ロゼ、お休み!」
と言い、扉を開け、するりと出て行ったのである。