騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!

第18話「家令バジル」

護衛の騎士達が見守る中、屈強な門番により、巨大な正門が開けられた。
ベアトリスとロゼールを乗せた大型専用馬車はドラーゼ公爵家邸内へ滑り込む。

ドラーゼ公爵家邸へ、当然ロゼールは初めて入る。
王都内なのに、まるで広大な公園である。

そして正面には左右にでんと広がった、5階建ての巨大な本館。

本館以外にも、敷地内にはたくさんの建物があるようだ。

ロゼールは、あまりのだだっぴろさにびっくり。
つい、
きょろきょろしてしまう。

正門から本館までも数百メートルはある。
馬車はのんびり、ゆったりと走り、ようやく本館前へ。

これまた巨大な玄関前はロータリーとなっており、
待ち受ける公爵家の使用人が数十人、ずらりと並んでいるのが見える。

馬車が止まる前、ベアトリスが、ロゼールへ声をかけて来た。

「ロゼ」

「はい」

「貴女は私のお付きで護衛役、先に馬車を降りて、玄関まで私を導いて頂戴(ちょうだい)

「は! かしこまりました!」

ラパン修道院で一緒に過ごした時とは全く違う。

ベアトリスの口調が、はっきりと変わっていた。
ロゼールの主人然としてふるまい、凛とした気高さが漂っている。

対して、これまでに騎士として要人警護の経験もあるロゼールは、
はきはきと言葉を戻し、新たな(あるじ)に対し、座ったまま、
びしっと最敬礼して応えた。

玄関前で馬車が止まった。
御者がぱっと降り、速攻で駆け寄り、素早く客室の扉を開けた。

指示通り、まずはロゼールが降り、扉のそばで敬礼し、直立不動でベアトリスを待った。

満を持して、主役登場!
という感じで、優雅な仕草で ベアトリスが降り立った。

と、同時にすかさず。

「「「「「お帰りなさいませ! ベアトリスお嬢様! お疲れ様でございました!!」」」」」

という使用人達の大合唱。

使用人達へ、軽く手を数回振るベアトリス。
カリスマ感、全開である。

と、騎馬で付き従っていた男子騎士たちが下馬!
ばらばらばらっと、ベアトリスに駆け寄った。
いつものようにベアトリスの周囲を囲み、『人間の盾』で彼女を玄関まで護衛しようとしたのだ。

しかしベアトリスは、笑顔のまま手で制し、

「ご苦労様、ここは既に我が家の敷地内、貴方達の護衛はもう不要です。持ち場へ戻ってくださいな」

ベアトリス護衛のリーダー騎士は、ロゼールが見知った先輩の騎士である。

ちらと、ベアトリスに付き従うロゼールを見て、
リーダー騎士は、不満そうな顔をした。

だが、逆らえるはずもない。

「は! かしこまりました!」

と返事を戻し、配下とともに、屋敷の各所へ散ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

騎士達が散り、ロゼールが、ベアトリスを先導して歩くと、

数多居る使用人達の中から、ぬおっとひとりの『偉丈夫』が現れた。
使用人達を率いるリーダーという趣きである。

『偉丈夫』の身長は2m近く、筋骨隆々のむっきむき。
40代半ばの、たくましい男性である。

「ベアトリスお嬢様、お帰りなさいませ。花嫁修業、お疲れ様でございました。早速ですが、教皇様、枢機卿様からお礼のお手紙が届いております。改めてベアトリス様とお会いしたいとおっしゃっておられるという伝言付きでございます」

傍で聞いていたロゼールは、ピン!と来た。

今回、ラパン修道院の改革が為された。

素晴らしい結果が出た事に対する、
教皇、枢機卿という創世神教会2大巨頭から、ベアトリスへ書面が届いたのだろう。

やはり自分とベアトリスは、住む世界が違う……違いすぎると実感した。
そして、自分がドラーゼ公爵家で上手くやっていけるのか、
折り合いがつけられるのか、少し不安になる。

しかし、両巨頭の手紙なのに、ベアトリスは「しれっ」と言葉を戻した。

「そう? 忙しいから、手紙は、後で拝見するわ。まずは父上と母上、そしてアロイスへ、ロゼを紹介するから」

「はい! かしこまりました!」

偉丈夫は、了解すると、深々と礼をした。

そして、ゆっくりと顔をあげると、わずかに微笑んだ。
興味深そうに、ロゼールを見る。

「ほう、この方が、元騎士でブランシュ男爵様のご令嬢、ロゼール・ブランシュ様ですか?」

「ええ、ロゼよ。ああ、そうそう! 私の事をベアーテと、愛称で呼ぶように指示してあるから……それと貴方たち使用人も、彼女をロゼと呼んで頂戴(ちょうだい)!」

ベアトリスは、後で行き違いが無いよう、念を押したようだ。
通常、主人を愛称で呼ぶなど、絶対にありえないからだ。

そして、使用人達にも、ロゼールを愛称で呼ぶよう命令した。

こちらは、ロゼールが、ドラーゼ公爵家に少しでも早く馴染むよう、
ベアトリスが配慮してくれたに違いない。
ありがたいと思う……

「ほう! それはそれは、はい! かしこまりました!」

今度は、やや浅く礼をした『偉丈夫』はいかにも面白そうに「ふっ」と笑った。

そして、『偉丈夫』はロゼ―ルへと向き直る。

「はじめまして、ロゼール様、ドラーゼ公爵家、家令(ハウス・スチュワード)のバジルでございます。貴女様のお名前は、存じ上げておりましたし、お噂も、良くお聞きしておりますぞ……ベアトリス様のご命令ですから、ロゼ様と呼ばせて頂きましょう」

対して、ロゼールもあいさつする。

「はい! こちらこそ、初めまして、バジル様! ロゼール・ブランシュです。これからベアトリス様のお付きの騎士兼……メイドとして仕えさせて頂きます。ロゼと呼んでください!」

ロゼールが挨拶を終わると、ベアトリスが、

「バジルはね、私の武道の師匠なのよ」

武道の師匠?
成る程、ベアトリス様のグーパン、オーガ殴殺は、
ただ力任せじゃなかったって事かあ……納得。

そんな事を考えるロゼールをよそに、家令バジルは豪快に笑う。

「ははははは! 師匠などと、(おそ)れ多い! すでにお嬢様の強さは、私を遥かに超えておりますよ」

しかし、ベアトリスは苦笑する。

「でもね、バジル。その私よりも、オークどもをた~くさん倒したのがロゼなのよ。おまけに親玉もロゼが倒したから、美味しいところを全部持っていかれてしまったわ」

「ははははは、成る程。私もいずれロゼ様と、お手合わせをお願いしましょう……では、参りましょうか。ご主人様達が、『大応接室』でお待ちになっておりますよ」

家令のバジルはそう言い、ロゼールとベアトリスを屋敷の『大応接室』まで連れて行ったのである。
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