騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!
第23話「私だって、かよわい乙女なのよ!」
「待ってたわ! すぐに入って頂戴!」
と、急かすようなベアトリスの声が聞こえた。
バジルは扉の向こうで見えないベアトリスへ深く一礼。
「失礼致します!」
とフレデリクの書斎へ入るより大声を発し、扉を開けた。
「では、ロゼ様、失礼して先にお部屋へ入らせて頂きます……失礼致します、ベアトリスお嬢様!」
バジルは淡々と告げ、やはり優雅な立ち居振る舞いで、ベアトリスの部屋へ入った。
入ってすぐの部屋は、ベアトリスが普段過ごす居間ではなく、控えの間であった。
どうやらこの部屋で、ロゼールを待っていたらしい。
「うふふ、お帰り、ロゼ」
「ただいま、戻りました、ベアーテ様!」
ロゼ―ルが入室すると、
「ああ、バジル。もう大丈夫よ。何かあったら呼ぶわ。それと予定通り、ロゼには私の部屋を与えるから!」
ベアトリスは「びしばし!」と命令した。
「は! かしこまりました! では! 何かあったら魔導ベルでお呼びくださいませ!」
対して、バジルも滑舌良く応え、やはり優雅な立ち居振る舞いで引き下がった。
扉がバジルによって閉められると……
ベアトリスは一気に柔和な顔つきとなった。
自宅へ戻った時とはまた違う、ラパン修道院で生活を共にした時の笑顔と同じだ。
成る程と、ベアトリスは納得し、ピン!と来た。
ひとつの仮説が思い浮かぶ。
「うふふ、結構、時間がかかったわね、お父様とのお話は」
ベアトリスから尋ねられ、ロゼールは、
「はあ、ぼちぼちですね」
と無難な言い回しをした。
ベアトリスは更に尋ねて来る。
「お父様ったら……私と同じく疲れているからすぐに解放してと言ったのに、ロゼ、気に入られたでしょ?」
対して、ロゼールはまたも同じ物言い。
「はあ、ぼちぼちですね」
すると、ベアトリスは軽く切れる。
「もう、何よ! はあ、ぼちぼち、ぼちぼちって! まるでどこかの貴族みたいに、のらりくらりと、やめて! そういうの!」
やはり、仮説が当たった。
なので、ロゼールは、
「はい、了解致しました。では、ベアーテ様とふたりきりで、こちらのお部屋において過ごす際には、修道院と同じノリで行かせて頂きます」
と言えば、
「ああ、感動! さすがロゼ! 私が何を望んでいるのか、すぐ分かる! 打てば響くってこの事ね!」
ぱああっと、顔を輝かせた。
ここは少し、ウイットをきかせた方が良いだろう。
少し自慢になるかもしれないが、
主ベアトリスの理解度に自負があると取って欲しい。
「ええ、ベアーテ様のお考えは、7割がた、理解出来ますから」
「だめ! 私のロゼが7割がた、なんて! 目標はもっと高く持ってよ!」
「はい! ではベアーテ様を9割がた、ご理解出来るよう頑張ります!」
「うふふ、さすがロゼ! 人間にはどうしても他人と分かち合えない1割の部分があるものね! 血を分けた親兄弟でさえもね!」
「御意! おっしゃる通りだと思います」
ロゼールのウイットは理解して貰ったらしい。
ベアトリスは、ひどく上機嫌となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロゼールとベアトリスは少し雑談したが、
いわざるロゼは、ベアトリス父フレデリクから言われた内容を殆ど話さなかった。
ただ、励まされたとだけ、主へ伝えておいたのである。
上機嫌のベアトリスは、ロゼールを部屋の各所へ案内すると言い出した。
「さあ! 私の部屋を案内するわ! 少し時間がかかるけど、我慢してね!」
「は! 謹んでお供致します!」
「ロゼの部屋にも案内するから! 3部屋あげる!」
「え? 3部屋も! 宜しいのですか?」
「大丈夫! 20室あるから! そのうち1室は、ちょっと、わけありの部屋なのよ」
「わけあり?」
「ええ、たまにね、生前私を凄く可愛がって頂いた先代ドラーゼ公爵家当主、おじいさまの亡霊が出るらしいの!」
「はあ!? 前当主様の亡霊が!?」
「うん! 百戦錬磨のロゼなら、亡霊なんて平気でしょ!」
「は、はあ……確かに、騎士隊で、不死者退治にも赴いたので平気ですが……」
「あはは、私、おじいさまは大好きなんだけど、亡霊は苦手なの」
「そ、そうなんですか? 信じられない……」
「何よ、それ! その反応! 私だって、かよわい乙女なのよ!」
「いえいえ! 麗しき乙女だとは思いますが、『かよわい』とはとてもとても」
「ぶつよ! ぐ~で!」
「あはは、ご勘弁を、ベアーテ様! ロゼは、オーガのようになりたくありません」
「冗談よ! ロゼスレイヤーなんて、呼ばれたくないわ!」
などと、他愛もない会話を交わしながら、
ふたりはベアトリスの部屋を回ったのである。
と、急かすようなベアトリスの声が聞こえた。
バジルは扉の向こうで見えないベアトリスへ深く一礼。
「失礼致します!」
とフレデリクの書斎へ入るより大声を発し、扉を開けた。
「では、ロゼ様、失礼して先にお部屋へ入らせて頂きます……失礼致します、ベアトリスお嬢様!」
バジルは淡々と告げ、やはり優雅な立ち居振る舞いで、ベアトリスの部屋へ入った。
入ってすぐの部屋は、ベアトリスが普段過ごす居間ではなく、控えの間であった。
どうやらこの部屋で、ロゼールを待っていたらしい。
「うふふ、お帰り、ロゼ」
「ただいま、戻りました、ベアーテ様!」
ロゼ―ルが入室すると、
「ああ、バジル。もう大丈夫よ。何かあったら呼ぶわ。それと予定通り、ロゼには私の部屋を与えるから!」
ベアトリスは「びしばし!」と命令した。
「は! かしこまりました! では! 何かあったら魔導ベルでお呼びくださいませ!」
対して、バジルも滑舌良く応え、やはり優雅な立ち居振る舞いで引き下がった。
扉がバジルによって閉められると……
ベアトリスは一気に柔和な顔つきとなった。
自宅へ戻った時とはまた違う、ラパン修道院で生活を共にした時の笑顔と同じだ。
成る程と、ベアトリスは納得し、ピン!と来た。
ひとつの仮説が思い浮かぶ。
「うふふ、結構、時間がかかったわね、お父様とのお話は」
ベアトリスから尋ねられ、ロゼールは、
「はあ、ぼちぼちですね」
と無難な言い回しをした。
ベアトリスは更に尋ねて来る。
「お父様ったら……私と同じく疲れているからすぐに解放してと言ったのに、ロゼ、気に入られたでしょ?」
対して、ロゼールはまたも同じ物言い。
「はあ、ぼちぼちですね」
すると、ベアトリスは軽く切れる。
「もう、何よ! はあ、ぼちぼち、ぼちぼちって! まるでどこかの貴族みたいに、のらりくらりと、やめて! そういうの!」
やはり、仮説が当たった。
なので、ロゼールは、
「はい、了解致しました。では、ベアーテ様とふたりきりで、こちらのお部屋において過ごす際には、修道院と同じノリで行かせて頂きます」
と言えば、
「ああ、感動! さすがロゼ! 私が何を望んでいるのか、すぐ分かる! 打てば響くってこの事ね!」
ぱああっと、顔を輝かせた。
ここは少し、ウイットをきかせた方が良いだろう。
少し自慢になるかもしれないが、
主ベアトリスの理解度に自負があると取って欲しい。
「ええ、ベアーテ様のお考えは、7割がた、理解出来ますから」
「だめ! 私のロゼが7割がた、なんて! 目標はもっと高く持ってよ!」
「はい! ではベアーテ様を9割がた、ご理解出来るよう頑張ります!」
「うふふ、さすがロゼ! 人間にはどうしても他人と分かち合えない1割の部分があるものね! 血を分けた親兄弟でさえもね!」
「御意! おっしゃる通りだと思います」
ロゼールのウイットは理解して貰ったらしい。
ベアトリスは、ひどく上機嫌となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロゼールとベアトリスは少し雑談したが、
いわざるロゼは、ベアトリス父フレデリクから言われた内容を殆ど話さなかった。
ただ、励まされたとだけ、主へ伝えておいたのである。
上機嫌のベアトリスは、ロゼールを部屋の各所へ案内すると言い出した。
「さあ! 私の部屋を案内するわ! 少し時間がかかるけど、我慢してね!」
「は! 謹んでお供致します!」
「ロゼの部屋にも案内するから! 3部屋あげる!」
「え? 3部屋も! 宜しいのですか?」
「大丈夫! 20室あるから! そのうち1室は、ちょっと、わけありの部屋なのよ」
「わけあり?」
「ええ、たまにね、生前私を凄く可愛がって頂いた先代ドラーゼ公爵家当主、おじいさまの亡霊が出るらしいの!」
「はあ!? 前当主様の亡霊が!?」
「うん! 百戦錬磨のロゼなら、亡霊なんて平気でしょ!」
「は、はあ……確かに、騎士隊で、不死者退治にも赴いたので平気ですが……」
「あはは、私、おじいさまは大好きなんだけど、亡霊は苦手なの」
「そ、そうなんですか? 信じられない……」
「何よ、それ! その反応! 私だって、かよわい乙女なのよ!」
「いえいえ! 麗しき乙女だとは思いますが、『かよわい』とはとてもとても」
「ぶつよ! ぐ~で!」
「あはは、ご勘弁を、ベアーテ様! ロゼは、オーガのようになりたくありません」
「冗談よ! ロゼスレイヤーなんて、呼ばれたくないわ!」
などと、他愛もない会話を交わしながら、
ふたりはベアトリスの部屋を回ったのである。