騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!
第24話「想像成分が多めの7割」
ロゼールとベアトリスは、いくつもの部屋を回る。
その数20。
全てが、このドラーゼ公爵邸におけるベアトリスの部屋なのである。
5室ほど回ってから、ベアトリスが尋ねて来る。
「どう? ロゼ、何か感想はある?」
「はい、ベアーテ様。凄い数の部屋と……服ですね」
ロゼールが言えば、ベアトリスが吐き捨てるように言葉を戻す。
「はあ? ロゼったら、何言ってるの? 全然、たいした事ないわ」
「うっわ! 20部屋もあって、大した事ないのですか?」
「ええ。知り合いの王族は、王宮、別邸合わせて自分の部屋を100室以上持ってるわ」
ベアトリスは、少し不機嫌そうに口をとがらせた。
対して、ロゼールは苦笑。
「いや、王族とか、100室って……ベアーテ様の比較対象が極端過ぎますよ」
すると、ベアトリスは意味深な事を言う。
「うふふ、極端過ぎるなんて、とんでもない。ロゼもすぐ同じ生活レベルになるからね、慣れないといけないわよ」
しかし、ロゼールは苦笑したまま、首を横へ振る。
「ええっと……同じ生活レベルには到底ならないかと思いますが……ベアーテ様は主人、私は仕える使用人、ですから」
「だって! ロゼも一緒にこの部屋に住むのよ」
「それは、私がお付きというお役目において、ベアーテ様の温情で、お側で過ごすだけですから」
「お側で過ごすだけなんて、あま~い!」
「え? 甘い……ですか?」
「ええ、甘いわ。ロゼ、貴女はねメイドをしながらも、私と同じレベルの生活をするの! 衣食住すべてにおいて!」
「衣食住すべてが!? ベアーテ様と同じ!? それは、凄く畏れ多いですね」
「構わないわ! 幸い私とロゼは食べ物の嗜好も近いし、体型もそう。服も共有出来るしね!」
「ベアーテ様の服を共有!? 見せて頂いた舞踏会で着用するようなドレスは、私には到底似合いません。せいぜい、立派な革鎧を着用するくらいが関の山かと」
「そんなの駄目よ! ロゼ!」
「え? 駄目ですか?」
「ええ! ロゼ! 貴女はね、持てる才能を限りなく発揮し、更にバージョンアップしなければならない。もっと一流に触れて、その何たるかを知るべきよ」
「そこまで見込んで頂き、本当にありがたいのですが……」
「ですが……何?」
「ベアーテ様がなぜ、私にそこまで目をかけて頂くのか、理由が全く思い当たりません」
ロゼールが言うと、ベアトリスは意味深に笑う。
「うふふ、理由ねえ……」
「はい、理由が知りたいですね」
「へぇ、理由を知って、どうするの?」
「はい、ベアーテ様の9割を理解出来るようロゼは努力したいと思いますから」
「あはは、成る程。確かに私の9割を理解しろと言ったわね」
「はい、懸命に努力しますから。ヒントをください!」
「ヒントねえ……分かったわ……でも、貴女を、我がドラーゼ家に連れて来る理由なら前にも言ったでしょ?」
「はい、確かに、ラパン修道院でおっしゃいました」
ロゼールは言い、記憶をたぐった。
ベアトリスの言葉がリフレインする。
「ロゼール! 貴女はね、とても才能がある女子よ。もっと適材適所で輝くべき人材なの! それをしっかり自身で理解して!」
「ロゼール! 無理やりの、愛がない見合い結婚なんかしちゃいけない! 私ベアトリス・ドラーゼが、絶対にさせやしないわ!」
ベアトリスは、ロゼールの才を見込み、父フレデリク・ドラーゼ公爵に働きかけ、
父オーバンに直談判。
そして、ドラーゼ家へ引っ張って来てくれた。
ロゼールは身分違いながら、ベアトリスに近しい感情を覚え、信頼の絆を結んだ。
対して、ベアトリスも同じ気持ちを持ってくれたと思う。
その直感は間違ってはいないだろう。
しかし……
貴族という生き物は、伝統と慣習、見栄と世間体を重んじ、権力と金を欲する。
そして、自分の血筋、家柄を大事にする。
自家の繁栄と存続を最も優先する。
天職と感じ、騎士となったが……
貴族令嬢でもあるロゼールはそう認識し、これまでの人生で学んだ。
……物事には表と裏がある。
ベアトリスがここまで動いてくれたのには、もっと他の、
『大きな理由』があるはずだ。
だが……
その『大きな理由』を、
ベアトリスがそう簡単に教えてくれるとは限らない。
ただ……
ここまでベアトリスと接した中に、
また、このドラーゼ家の雰囲気にヒントが隠されていると、ロゼールは思う。
ベアトリスの言動を思い直す。
そして、このドラーゼ公爵家の家風……
当主たるベアトリスの父フレデリクが、自分の娘に、
そしてベアトリスの母バルバラも。
そして弟アロイスも。
血がつながった肉親でありながら、ベアトリスに対し、
とんでもなく気を遣っていた。
そこに『家族の気安さ』というものは、ほぼなかった。
けして、皆無ではない。
だが、希薄と言って良いかもしれない。
バジル以下使用人も、ベアトリスが当主であるかのように、
気を遣っていた……
そこまで考えて……
ロゼールは、いくつかの想像から成立する『仮説』を立てた。
もしもその仮説が真実だとしたら……
ベアトリスは、悩み苦しんだだろう。
多分、ベアトリスはロゼールの境遇に自分を重ねていた。
だから、ロゼールが、自分の代わりに羽ばたいて欲しい。
そう考えたのかもしれない。
ベアトリスの父フレデリクからも言われた。
「大丈夫! お前ならば出来る! 頑張ってあの子の出す課題をクリアし、才を活かせ! 世に出て名を残す女子になれ! 我がドラーゼ家が後押しする!」
才を活かせ! 世に出て名を残す女子になれ!
というのが、ベアトリス自身の望みである。
もしも、それが、何らかの理由があって、出来ないのだとしたら……
そこまで考え、ロゼールは納得した。
にっこりと笑う。
「分かりました」
「へえ、分かったの?」
「はい、私が目指す、ベアーテ様をご理解する9割とまではいきませんが……7割ほどは。まあ、想像成分が多めの7割ですが」
「想像成分が多めの7割? あはははは、相変わらず、面白いわね、ロゼは!」
ロゼールが考えた事を知ってか知らずか……
ベアトリスは、嬉しそうに笑い、
「さあ、まだ部屋はあるわ。ふたりでじっくりと見ましょう。貴女の部屋にも案内するわ」
と、見回りの続行を促したのである。
その数20。
全てが、このドラーゼ公爵邸におけるベアトリスの部屋なのである。
5室ほど回ってから、ベアトリスが尋ねて来る。
「どう? ロゼ、何か感想はある?」
「はい、ベアーテ様。凄い数の部屋と……服ですね」
ロゼールが言えば、ベアトリスが吐き捨てるように言葉を戻す。
「はあ? ロゼったら、何言ってるの? 全然、たいした事ないわ」
「うっわ! 20部屋もあって、大した事ないのですか?」
「ええ。知り合いの王族は、王宮、別邸合わせて自分の部屋を100室以上持ってるわ」
ベアトリスは、少し不機嫌そうに口をとがらせた。
対して、ロゼールは苦笑。
「いや、王族とか、100室って……ベアーテ様の比較対象が極端過ぎますよ」
すると、ベアトリスは意味深な事を言う。
「うふふ、極端過ぎるなんて、とんでもない。ロゼもすぐ同じ生活レベルになるからね、慣れないといけないわよ」
しかし、ロゼールは苦笑したまま、首を横へ振る。
「ええっと……同じ生活レベルには到底ならないかと思いますが……ベアーテ様は主人、私は仕える使用人、ですから」
「だって! ロゼも一緒にこの部屋に住むのよ」
「それは、私がお付きというお役目において、ベアーテ様の温情で、お側で過ごすだけですから」
「お側で過ごすだけなんて、あま~い!」
「え? 甘い……ですか?」
「ええ、甘いわ。ロゼ、貴女はねメイドをしながらも、私と同じレベルの生活をするの! 衣食住すべてにおいて!」
「衣食住すべてが!? ベアーテ様と同じ!? それは、凄く畏れ多いですね」
「構わないわ! 幸い私とロゼは食べ物の嗜好も近いし、体型もそう。服も共有出来るしね!」
「ベアーテ様の服を共有!? 見せて頂いた舞踏会で着用するようなドレスは、私には到底似合いません。せいぜい、立派な革鎧を着用するくらいが関の山かと」
「そんなの駄目よ! ロゼ!」
「え? 駄目ですか?」
「ええ! ロゼ! 貴女はね、持てる才能を限りなく発揮し、更にバージョンアップしなければならない。もっと一流に触れて、その何たるかを知るべきよ」
「そこまで見込んで頂き、本当にありがたいのですが……」
「ですが……何?」
「ベアーテ様がなぜ、私にそこまで目をかけて頂くのか、理由が全く思い当たりません」
ロゼールが言うと、ベアトリスは意味深に笑う。
「うふふ、理由ねえ……」
「はい、理由が知りたいですね」
「へぇ、理由を知って、どうするの?」
「はい、ベアーテ様の9割を理解出来るようロゼは努力したいと思いますから」
「あはは、成る程。確かに私の9割を理解しろと言ったわね」
「はい、懸命に努力しますから。ヒントをください!」
「ヒントねえ……分かったわ……でも、貴女を、我がドラーゼ家に連れて来る理由なら前にも言ったでしょ?」
「はい、確かに、ラパン修道院でおっしゃいました」
ロゼールは言い、記憶をたぐった。
ベアトリスの言葉がリフレインする。
「ロゼール! 貴女はね、とても才能がある女子よ。もっと適材適所で輝くべき人材なの! それをしっかり自身で理解して!」
「ロゼール! 無理やりの、愛がない見合い結婚なんかしちゃいけない! 私ベアトリス・ドラーゼが、絶対にさせやしないわ!」
ベアトリスは、ロゼールの才を見込み、父フレデリク・ドラーゼ公爵に働きかけ、
父オーバンに直談判。
そして、ドラーゼ家へ引っ張って来てくれた。
ロゼールは身分違いながら、ベアトリスに近しい感情を覚え、信頼の絆を結んだ。
対して、ベアトリスも同じ気持ちを持ってくれたと思う。
その直感は間違ってはいないだろう。
しかし……
貴族という生き物は、伝統と慣習、見栄と世間体を重んじ、権力と金を欲する。
そして、自分の血筋、家柄を大事にする。
自家の繁栄と存続を最も優先する。
天職と感じ、騎士となったが……
貴族令嬢でもあるロゼールはそう認識し、これまでの人生で学んだ。
……物事には表と裏がある。
ベアトリスがここまで動いてくれたのには、もっと他の、
『大きな理由』があるはずだ。
だが……
その『大きな理由』を、
ベアトリスがそう簡単に教えてくれるとは限らない。
ただ……
ここまでベアトリスと接した中に、
また、このドラーゼ家の雰囲気にヒントが隠されていると、ロゼールは思う。
ベアトリスの言動を思い直す。
そして、このドラーゼ公爵家の家風……
当主たるベアトリスの父フレデリクが、自分の娘に、
そしてベアトリスの母バルバラも。
そして弟アロイスも。
血がつながった肉親でありながら、ベアトリスに対し、
とんでもなく気を遣っていた。
そこに『家族の気安さ』というものは、ほぼなかった。
けして、皆無ではない。
だが、希薄と言って良いかもしれない。
バジル以下使用人も、ベアトリスが当主であるかのように、
気を遣っていた……
そこまで考えて……
ロゼールは、いくつかの想像から成立する『仮説』を立てた。
もしもその仮説が真実だとしたら……
ベアトリスは、悩み苦しんだだろう。
多分、ベアトリスはロゼールの境遇に自分を重ねていた。
だから、ロゼールが、自分の代わりに羽ばたいて欲しい。
そう考えたのかもしれない。
ベアトリスの父フレデリクからも言われた。
「大丈夫! お前ならば出来る! 頑張ってあの子の出す課題をクリアし、才を活かせ! 世に出て名を残す女子になれ! 我がドラーゼ家が後押しする!」
才を活かせ! 世に出て名を残す女子になれ!
というのが、ベアトリス自身の望みである。
もしも、それが、何らかの理由があって、出来ないのだとしたら……
そこまで考え、ロゼールは納得した。
にっこりと笑う。
「分かりました」
「へえ、分かったの?」
「はい、私が目指す、ベアーテ様をご理解する9割とまではいきませんが……7割ほどは。まあ、想像成分が多めの7割ですが」
「想像成分が多めの7割? あはははは、相変わらず、面白いわね、ロゼは!」
ロゼールが考えた事を知ってか知らずか……
ベアトリスは、嬉しそうに笑い、
「さあ、まだ部屋はあるわ。ふたりでじっくりと見ましょう。貴女の部屋にも案内するわ」
と、見回りの続行を促したのである。