騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!
第31話「底知れぬ強さを感じた」
ロゼールとベアトリスは、広い庭を突っ切り、闘技場へ入って行く。
闘技場とは、古代、剣闘士競技や野獣狩りといった催事が行われた公共施設だが、
この世界の闘技場は、各種の運動競技が行われる場の総称である。
特殊なものを除き、レサン王国の闘技場は、
スタンド型の観客席と前面に芝生を植えたフィールドから構成されている。
ロゼールとベアトリスが歩く、ドラーゼ公爵家の闘技場は、
スタンドに2万人収容可能な王都グラン・ベールの王国公式闘技場に比べれば、
さすがに規模は小さい。
だが、私設の闘技場としては、ロゼールが知る限りここまで大型の闘技場はない。
5,000人が収容可能だというスタンドこそ違うが、
フィールドは公式闘技場と同じ規模の仕様で、面積も全く同じである。
現在の時間は、午前5時30分過ぎ……
既に護衛の男女の王都騎士たちが、大勢、訓練に励んでいた。
ベアトリスとロゼールが、姿を現すと、あちこちで小さな歓声があがった。
ひとりは、ラパン修道院へ花嫁修業に赴き、久々に戻って来たこの家の麗しき令嬢。
もうひとりは、数多の凶悪な魔物は勿論、名だたる騎士達をも退けた、武勇の誉れ高き女傑なのだから。
ふたりはこの屋敷で注目の的なのだ。
当然、羨望の眼差しを向けられ、
軽く手を振るカリスマ令嬢、ベアトリスが主役ではあるのだが。
さてさて!
早朝という時間がら、若い騎士が多い。
ロゼールの見知っている顔が何人も居た。
最初に歓声をあげただけ、その後はちらと、ロゼールを見るが誰も何も言わない。
昨日、ベアトリスは改めて、ロゼールの『立ち位置』を騎士達へ通達したらしい。
その通達が徹底的に周知されているに違いない。
そしてベアトリスの武技の師匠でもある家令バジルは、フィールドの一番奥に居た。
さすがに執事服ではなく、革鎧姿である。
自然体で立っているが、ロゼールが見る限り、スキが全くない。
やはり相当な武道の達人らしい。
すぐロゼールとベアトリスを認識。
遠くに居ても、深々と頭を下げた。
歩きながらベアトリスは、小さく一礼。
同じくロゼールは同じくらい一礼。
更に歩いて、3人は1対2で正対する。
改めて挨拶となる。
武技の師匠だが、使用人のバジルから挨拶らしい。
「おはようございます! ベアトリス様!」
「おはよう! バジル!」
「おはようございます! ロゼ様!」
「おはようございます! バジル様!」
挨拶をした後、ロゼールを見たバジルの表情に微妙な変化があった。
多分、ベアトリスは、気付いているだろう。
そして、ロゼールはバジルの表情の変化の理由がはっきりと分かる。
表情の変化の理由とは、昨夜の出来事である。
そう、昨夜ロゼが休んだ寝室に、
前当主グレゴワール・ドラーゼの亡霊が出て、問答した一件に違いない。
果たして、亡霊と遭遇して、ロゼールがどのような状況となっているのか?
怖れおののく、縮み上がるという事はないにしても……
少し青ざめているくらいは想定していたかもしれない。
しかし、平然とし、元気なロゼールの態度、雰囲気は全く想定外だったのだろう。
グレゴワール・ドラーゼの亡霊が、ロゼールへ全く害を及ぼさず、
普通にやりとり出来た事も大きい。
否!
大きいどころか、……面白かった。
上級貴族の当主とは思えぬほど、口が悪い。
そして、多分目の中に入れても痛くないくらいに可愛がっていた、
愛孫ベアトリスを、親しみを込め、
暴れじゃじゃ馬の無軌道暴走孫娘と呼ぶ、情の深さ。
どこかの邪霊がグレゴワールを装っている可能性はゼロではない。
しかし、感覚的にだが、ロゼールは昨夜の亡霊が、
グレゴワール・ドラーゼ本人だと確信していた。
昨夜の件は、バジルが尋ねて来るか、微妙だが……
ベアトリスは、絶対尋ねて来るに違いない。
あのあだ名を言おうか、言うまいか……
ロゼールは大いに迷っている。
つらつらと考えるロゼールをよそに……
訓練が始まろうとしていた。
まずは準備運動のストレッチ。
これは考え方が分かれていて、常在戦場の武道訓練に、不要だという者も居る。
しかしバジルは、準備運動、整理運動をしっかりとやるモットーであった。
ロゼールは、基本バジルと同じ考え方だ。
準備体操は筋肉をじっくり伸ばす事で、主に柔軟性を目的とした運動である。
筋肉を丹念にほぐす事は、不慮のケガを予防し、次に行う運動の効果を高める。
整理運動は、次の日まで疲れを残さないように身体を整える運動であり、
こちらも不慮のケガを予防する為には、とても大切だといえよう。
話を戻そう。
ストレッチが終わり、フィールドを走った後、
早速、格闘術の訓練が始まった。
まず、ベアトリスが、バジルと組み手を行う。
お互いに向き合い、礼をした後、
組手は始まった。
ロゼールは、じっくりとふたりの技の応酬を観察した。
バジルの拳法は独特であった。
敵の死角を突き、拳や蹴りの軌道を変え、
相手に攻撃を見切れないようにするものだ。
また試合では反則となる急所を攻める事もいとわない。
実戦的な技を繰り出した。
オークとの戦いをともにし、ベアトリスの強さは実感していた。
だが、師バジルと互角以上に戦い、伝授された拳法を完璧に使いこなす主を見て、
ロゼールは改めて底知れぬ強さを感じたのである。
闘技場とは、古代、剣闘士競技や野獣狩りといった催事が行われた公共施設だが、
この世界の闘技場は、各種の運動競技が行われる場の総称である。
特殊なものを除き、レサン王国の闘技場は、
スタンド型の観客席と前面に芝生を植えたフィールドから構成されている。
ロゼールとベアトリスが歩く、ドラーゼ公爵家の闘技場は、
スタンドに2万人収容可能な王都グラン・ベールの王国公式闘技場に比べれば、
さすがに規模は小さい。
だが、私設の闘技場としては、ロゼールが知る限りここまで大型の闘技場はない。
5,000人が収容可能だというスタンドこそ違うが、
フィールドは公式闘技場と同じ規模の仕様で、面積も全く同じである。
現在の時間は、午前5時30分過ぎ……
既に護衛の男女の王都騎士たちが、大勢、訓練に励んでいた。
ベアトリスとロゼールが、姿を現すと、あちこちで小さな歓声があがった。
ひとりは、ラパン修道院へ花嫁修業に赴き、久々に戻って来たこの家の麗しき令嬢。
もうひとりは、数多の凶悪な魔物は勿論、名だたる騎士達をも退けた、武勇の誉れ高き女傑なのだから。
ふたりはこの屋敷で注目の的なのだ。
当然、羨望の眼差しを向けられ、
軽く手を振るカリスマ令嬢、ベアトリスが主役ではあるのだが。
さてさて!
早朝という時間がら、若い騎士が多い。
ロゼールの見知っている顔が何人も居た。
最初に歓声をあげただけ、その後はちらと、ロゼールを見るが誰も何も言わない。
昨日、ベアトリスは改めて、ロゼールの『立ち位置』を騎士達へ通達したらしい。
その通達が徹底的に周知されているに違いない。
そしてベアトリスの武技の師匠でもある家令バジルは、フィールドの一番奥に居た。
さすがに執事服ではなく、革鎧姿である。
自然体で立っているが、ロゼールが見る限り、スキが全くない。
やはり相当な武道の達人らしい。
すぐロゼールとベアトリスを認識。
遠くに居ても、深々と頭を下げた。
歩きながらベアトリスは、小さく一礼。
同じくロゼールは同じくらい一礼。
更に歩いて、3人は1対2で正対する。
改めて挨拶となる。
武技の師匠だが、使用人のバジルから挨拶らしい。
「おはようございます! ベアトリス様!」
「おはよう! バジル!」
「おはようございます! ロゼ様!」
「おはようございます! バジル様!」
挨拶をした後、ロゼールを見たバジルの表情に微妙な変化があった。
多分、ベアトリスは、気付いているだろう。
そして、ロゼールはバジルの表情の変化の理由がはっきりと分かる。
表情の変化の理由とは、昨夜の出来事である。
そう、昨夜ロゼが休んだ寝室に、
前当主グレゴワール・ドラーゼの亡霊が出て、問答した一件に違いない。
果たして、亡霊と遭遇して、ロゼールがどのような状況となっているのか?
怖れおののく、縮み上がるという事はないにしても……
少し青ざめているくらいは想定していたかもしれない。
しかし、平然とし、元気なロゼールの態度、雰囲気は全く想定外だったのだろう。
グレゴワール・ドラーゼの亡霊が、ロゼールへ全く害を及ぼさず、
普通にやりとり出来た事も大きい。
否!
大きいどころか、……面白かった。
上級貴族の当主とは思えぬほど、口が悪い。
そして、多分目の中に入れても痛くないくらいに可愛がっていた、
愛孫ベアトリスを、親しみを込め、
暴れじゃじゃ馬の無軌道暴走孫娘と呼ぶ、情の深さ。
どこかの邪霊がグレゴワールを装っている可能性はゼロではない。
しかし、感覚的にだが、ロゼールは昨夜の亡霊が、
グレゴワール・ドラーゼ本人だと確信していた。
昨夜の件は、バジルが尋ねて来るか、微妙だが……
ベアトリスは、絶対尋ねて来るに違いない。
あのあだ名を言おうか、言うまいか……
ロゼールは大いに迷っている。
つらつらと考えるロゼールをよそに……
訓練が始まろうとしていた。
まずは準備運動のストレッチ。
これは考え方が分かれていて、常在戦場の武道訓練に、不要だという者も居る。
しかしバジルは、準備運動、整理運動をしっかりとやるモットーであった。
ロゼールは、基本バジルと同じ考え方だ。
準備体操は筋肉をじっくり伸ばす事で、主に柔軟性を目的とした運動である。
筋肉を丹念にほぐす事は、不慮のケガを予防し、次に行う運動の効果を高める。
整理運動は、次の日まで疲れを残さないように身体を整える運動であり、
こちらも不慮のケガを予防する為には、とても大切だといえよう。
話を戻そう。
ストレッチが終わり、フィールドを走った後、
早速、格闘術の訓練が始まった。
まず、ベアトリスが、バジルと組み手を行う。
お互いに向き合い、礼をした後、
組手は始まった。
ロゼールは、じっくりとふたりの技の応酬を観察した。
バジルの拳法は独特であった。
敵の死角を突き、拳や蹴りの軌道を変え、
相手に攻撃を見切れないようにするものだ。
また試合では反則となる急所を攻める事もいとわない。
実戦的な技を繰り出した。
オークとの戦いをともにし、ベアトリスの強さは実感していた。
だが、師バジルと互角以上に戦い、伝授された拳法を完璧に使いこなす主を見て、
ロゼールは改めて底知れぬ強さを感じたのである。