騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!
第41話「安堵と決別」
その夜……
寝室でベッドへ入ったロゼールは中々、寝付けなかった。
いろいろな事が頭に浮かんで来るのだ。
全て、ベアトリスが話した事が原因であった。
事は大きい。
王国の二大貴族が絡む話なのだ。
公爵、侯爵という超が付く上級貴族に比べ、
男爵の娘でしかない自分がどうこう出来る問題ではない。
やれるのは主として忠実に仕えるベアトリスを懸命に支え、彼女を幸せにする事。
それしかない!
しかし……
ロゼールは思う。
徐々にドラーゼ家の内情が判明すると同時に、
ベアトリスはいろいろな重いものを背負っていたという事も分かって来た。
あまりにも有能で、あまりにも才気煥発でありすぎる為に……
さて、そろそろ……
前当主様……グレゴワール・ドラーゼ様の亡霊が現れる頃だ。
グレゴワールとは、どう話そうか?
と、悩んでいたら、昨夜と同じ現象が起こった。
そんな予感がする!
つらつらとロゼールが考えていると……
いきなり、周囲の大気が重くなった。
これは……何度も経験し、また昨夜同様、亡霊が現れる『前触れ』の現象である。
ロゼールは事前に決めていた。
今度は、自分から、グレゴワール・ドラーゼの亡霊へ話しかけてみる事を。
ベアトリスからいろいろと話して貰ったとはいえ、
ドラーゼ公爵家、そして付帯する状況をあまりにも知らないからだ。
はっきりと亡霊の気配を感じ、ロゼールは臆さず話しかける。
「グレゴワール・ドラーゼ様ですか!」
対して、昨夜聞いた重々しい声が、寝室に響く。
『うむ! そうだ! グレゴワール・ドラーゼだ! ……ほう、昨夜はわしを避けていたのに今夜は自分から話しかけて来たのか? ロゼよ、どういう心変わりだ?』
ここでくどくど説明は不要だろう。
知らない事は多いが、先に切り札を使った方が宜しい。
思い切りの良いロゼールは、いきなりカードを切った。
「私、グレゴワール様がお命じになって、ベアーテ様がドラーゼ公爵家を継ぐようになったと知りました。いろいろと話をお聞き致しました」
『ふむ……そうか。しかし、あの子はわしの言う事を拒んでおる』
「ええ、そうお聞きしました」
『ふむ、誠に不可解だ。わしには到底理解出来ぬ』
「到底理解出来ぬとは、何が、でしょう?」
『あの子が……ベアーテがな、ドラーゼ公爵家を継ぐ事が一番合理的だからだ!』
「……………………」
『ロゼ! お前もそう思うだろう? 沈黙は肯定の証《あかし》だぞ』
沈黙は肯定の証と言われ、ロゼールは必死に懇願する。
「男子の……ご嫡男のアロイス様では、ダメなんですよね? 同じお孫さんなのに!跡をお継ぎになるのが?」
ロゼールが必死で言うと、グレゴワールはロゼを呼ぶ。
ひどく冷静な口調である。
『ロゼ!』
「は、はい」
『全くの愚問だな……ロゼ、お前は自身で分かった上で尋ねたのか? アロイスには当主の資質がない事を』
「……………………」
『そういう行為を無駄! ……というのだぞ』
「……………………」
『わしはベアーテにも、フレデリクにも言った。アロイスではドラーゼ家を潰す。否! 潰され、喰い殺されてしまうだろう!』
『アロイスには、覇気がない、志がない、リーダーシップもない、ないないない、皆無なのだ』
「……………………」
「アロイスなど、貴族家の当主には到底向かん! 創世神教会へ放り込み、司祭にする修行でもさせよとわしは言ったのにな!」
グレゴワールのその言葉を聞き、ロゼールは安堵した。
非情さがにじみ出るさすがの前当主も、
肉親を、孫を亡き者にする鬼畜ではなかったと、ホッとしたのだ。
「……………………」
しかし、グレゴワールは身内以外には極めて冷酷だ。
『ベアーテは、カニャール侯爵家の小娘を殺さなかった。災いの種を刈り取らなかったのだ』
「……………………」
『幼馴染だ、友情だという、くだらない幻影に囚われてな!』
「……………………」
『フレデリクは勿論だが、ベアーテも、とんでもない愚か者だ! 最近は父娘そろって、わしの教育が誤っていたのでは! とさえ思えて来るわ!』
「……………………」
『こら! ロゼ! 黙っとらんで何とか言え!』
「グレゴワール・ドラーゼ様!」
『な、何だ? いきなりフルネームで呼びおって!』
ロゼールは軽く息を吐く。
「……人間の心を捨てるくらい非情にならずとも、皆が助かる道はありませんか?」
『ふん、何を甘ったるい事を言うか! ……ロゼ! お前は騎士として散々正義の刃を振るい、非情に情け容赦なく、敵を屠って来たではないか! お前が生まれたブランシュ男爵家の名をあげ、存続させる為にな!』
「はい! 確かに私は騎士として、王国民を守るのは勿論ですが、家の為、数多の敵を倒しました。しかし私の振るう剣は敵を倒すだけではありません! 相手を活かす、そして全員で生き残る! そのような方策を考ええる! そうは行きませんか?」
しかし、ロゼールの必死な懇願も、残念ながら、グレゴワールには届かなかったらしい。
『ロゼ、お前にはがっかりした。少しは見どころがあると思ったが……ベアーテ同様、とんだ見込み違いだったようだ。もう二度と会う事もなかろう……』
瞬間!
グレゴワールの気配は消え失せた。
その後、二度と現れる事はなかったのである。
寝室でベッドへ入ったロゼールは中々、寝付けなかった。
いろいろな事が頭に浮かんで来るのだ。
全て、ベアトリスが話した事が原因であった。
事は大きい。
王国の二大貴族が絡む話なのだ。
公爵、侯爵という超が付く上級貴族に比べ、
男爵の娘でしかない自分がどうこう出来る問題ではない。
やれるのは主として忠実に仕えるベアトリスを懸命に支え、彼女を幸せにする事。
それしかない!
しかし……
ロゼールは思う。
徐々にドラーゼ家の内情が判明すると同時に、
ベアトリスはいろいろな重いものを背負っていたという事も分かって来た。
あまりにも有能で、あまりにも才気煥発でありすぎる為に……
さて、そろそろ……
前当主様……グレゴワール・ドラーゼ様の亡霊が現れる頃だ。
グレゴワールとは、どう話そうか?
と、悩んでいたら、昨夜と同じ現象が起こった。
そんな予感がする!
つらつらとロゼールが考えていると……
いきなり、周囲の大気が重くなった。
これは……何度も経験し、また昨夜同様、亡霊が現れる『前触れ』の現象である。
ロゼールは事前に決めていた。
今度は、自分から、グレゴワール・ドラーゼの亡霊へ話しかけてみる事を。
ベアトリスからいろいろと話して貰ったとはいえ、
ドラーゼ公爵家、そして付帯する状況をあまりにも知らないからだ。
はっきりと亡霊の気配を感じ、ロゼールは臆さず話しかける。
「グレゴワール・ドラーゼ様ですか!」
対して、昨夜聞いた重々しい声が、寝室に響く。
『うむ! そうだ! グレゴワール・ドラーゼだ! ……ほう、昨夜はわしを避けていたのに今夜は自分から話しかけて来たのか? ロゼよ、どういう心変わりだ?』
ここでくどくど説明は不要だろう。
知らない事は多いが、先に切り札を使った方が宜しい。
思い切りの良いロゼールは、いきなりカードを切った。
「私、グレゴワール様がお命じになって、ベアーテ様がドラーゼ公爵家を継ぐようになったと知りました。いろいろと話をお聞き致しました」
『ふむ……そうか。しかし、あの子はわしの言う事を拒んでおる』
「ええ、そうお聞きしました」
『ふむ、誠に不可解だ。わしには到底理解出来ぬ』
「到底理解出来ぬとは、何が、でしょう?」
『あの子が……ベアーテがな、ドラーゼ公爵家を継ぐ事が一番合理的だからだ!』
「……………………」
『ロゼ! お前もそう思うだろう? 沈黙は肯定の証《あかし》だぞ』
沈黙は肯定の証と言われ、ロゼールは必死に懇願する。
「男子の……ご嫡男のアロイス様では、ダメなんですよね? 同じお孫さんなのに!跡をお継ぎになるのが?」
ロゼールが必死で言うと、グレゴワールはロゼを呼ぶ。
ひどく冷静な口調である。
『ロゼ!』
「は、はい」
『全くの愚問だな……ロゼ、お前は自身で分かった上で尋ねたのか? アロイスには当主の資質がない事を』
「……………………」
『そういう行為を無駄! ……というのだぞ』
「……………………」
『わしはベアーテにも、フレデリクにも言った。アロイスではドラーゼ家を潰す。否! 潰され、喰い殺されてしまうだろう!』
『アロイスには、覇気がない、志がない、リーダーシップもない、ないないない、皆無なのだ』
「……………………」
「アロイスなど、貴族家の当主には到底向かん! 創世神教会へ放り込み、司祭にする修行でもさせよとわしは言ったのにな!」
グレゴワールのその言葉を聞き、ロゼールは安堵した。
非情さがにじみ出るさすがの前当主も、
肉親を、孫を亡き者にする鬼畜ではなかったと、ホッとしたのだ。
「……………………」
しかし、グレゴワールは身内以外には極めて冷酷だ。
『ベアーテは、カニャール侯爵家の小娘を殺さなかった。災いの種を刈り取らなかったのだ』
「……………………」
『幼馴染だ、友情だという、くだらない幻影に囚われてな!』
「……………………」
『フレデリクは勿論だが、ベアーテも、とんでもない愚か者だ! 最近は父娘そろって、わしの教育が誤っていたのでは! とさえ思えて来るわ!』
「……………………」
『こら! ロゼ! 黙っとらんで何とか言え!』
「グレゴワール・ドラーゼ様!」
『な、何だ? いきなりフルネームで呼びおって!』
ロゼールは軽く息を吐く。
「……人間の心を捨てるくらい非情にならずとも、皆が助かる道はありませんか?」
『ふん、何を甘ったるい事を言うか! ……ロゼ! お前は騎士として散々正義の刃を振るい、非情に情け容赦なく、敵を屠って来たではないか! お前が生まれたブランシュ男爵家の名をあげ、存続させる為にな!』
「はい! 確かに私は騎士として、王国民を守るのは勿論ですが、家の為、数多の敵を倒しました。しかし私の振るう剣は敵を倒すだけではありません! 相手を活かす、そして全員で生き残る! そのような方策を考ええる! そうは行きませんか?」
しかし、ロゼールの必死な懇願も、残念ながら、グレゴワールには届かなかったらしい。
『ロゼ、お前にはがっかりした。少しは見どころがあると思ったが……ベアーテ同様、とんだ見込み違いだったようだ。もう二度と会う事もなかろう……』
瞬間!
グレゴワールの気配は消え失せた。
その後、二度と現れる事はなかったのである。