騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!
第6話「ご再考をお願い致します!」
ドラーゼ公爵家のカリスマ令嬢、『オーガスレイヤー』のベアトリスが、
指名した『教育係』は、全くの想定外!
花嫁修業、行儀見習い者としてラパン修道院へ入ったばかりの見習いシスター、
ロゼール・ブランシュであった。
「え? わ、私!?」
戸惑うロゼールに向かって、ベアトリスは「びしっ!」と指をさす。
「そうよ! ロゼール・ブランシュ! 貴女が私の教育係よ!」
このような場合、レサン王国において、
格上の貴族やその親族に対し、詳しく理由を聞いたり、反論する事は基本許されていない。
身分が低き者は「はい! かしこまりました!」と、
快く従う事が、『美徳』とされていたのである。
しかし、さすがに、ロゼールは尋ねずにいられなかった。
「ベ、ベアトリス様! な、何故!? わ、私に!? きょ、教育係を!?」
「うふふ♡ 面白そうだから!」
「え!? お、面白そうだから!?」
「うふふ、貴女の噂は父上を始め、いろいろな人から聞いていたわ。騎士隊にモノ凄い女傑が居るって!」
「モノ凄いって、そ、そんな事は……ありませんが」
ロゼールがどう答えて良いのか迷い、口ごもると、
ベアトリスは悪戯っぽく笑った。
「うふふ、謙遜しないの。貴女は私の護衛も務める騎士隊の男どもを、馬上槍試合で、ほぼ全員打ち負かしたんですって?」
「は、はい……」
「ロゼール!」
「は、はいっ!」
「貴女って、『私と同じ匂い』がするわよ」
「ベ、ベアトリス様と!? わ、私が!? お、お、同じ!? 匂いっ!?」
ベアトリスは、父ドラーゼ公爵の指示でラパン修道院へ行く事となり、
事前に調査した結果……
かつて騎士隊の男子どもを撫で斬りにした、
ブランシュ男爵家の令嬢で、
元騎士、元女傑のロゼールが在籍していることを知った。
強靭な『オーガスレイヤー』たる公爵家令嬢ベアトリスも、
会った事のない女傑ロゼールに大いに興味を持ったのだ。
そして、自分の教育係に! と決めた次第……
お互いに興味を持ったこの『出会い』が、ふたりの運命を大きく変える事となった。
だがそれは、後々の話……
さてさて!
ここで修道院長が異を唱える。
ロゼールと同じく、これは掟破りの行動である。
「お嬢様っ!!」
「はい、何でしょう、修道院長さん」
「シスター、ロゼールは1か月前、当ラパン修道院へ見習いとして入ったばかり! お嬢様の教育指導が出来るとは到底思えません!」
修道院長はきっぱり言い放つと、ぎろっとロゼールをにらんだ。
「シスター、ロゼール」
「はい」
「はい、ではありません。今すぐ自分から辞退しなさい。未熟者の私では、ベアトリス様の教育係など、到底務まりませんと。そしていつもの仕事へ戻りなさい!」
ここで、ベアトリスが割って入る。
「ちょっ~と、ストップ。ジャストモーメントぉ! うふふ、修道院長さん、貴女、この私の指示をさえぎって、何、勝手に仕切ってるの? これはね、既に決定事項なのよ!」
「いえ! でも!」
「でも、じゃないの、決定なの」
「そんな! いかにお嬢様とはいえ! わ、私は修道院長として! と、到底! う、受け入れられませんっ!」
「はあい! 3度目で~す! ぶっぶ~! 3度目の反抗は私のマイルールで、NG決定よ」
「へ!? 3度目の反抗はNG決定!? どういう事でしょう?」
「ええ、修道院長さん! 貴女、もう退場!」
「た、退場!? って!?」
「分からないの? 文字通りよ。修道院長さん、いえ、『前』修道院長さん。貴女はたった今、修道院長ではなくなりましたあ」
「え!? ど、ど、どういう事でしょう?」
「まだ分からないの、『前』修道院長さん、貴女はたった今、退職決定! さっさと荷物をまとめて、この修道院から出て行ってね」
「いきなり! そんなっ! 横暴なっ! いくら名家ドラーゼ公爵家のお嬢様とはいえ、そのような権限はお持ちではありません! 枢機卿様に! いえ! 教皇様に! いえいえ! ご両名に訴えますわっ!」
「ぶっぶう~! 残念でしたあ!」
「残念!? そ、それは!? ど、どういう事でしょうか!?」
「どういうもこういうも、創世神教会本部が行った調査の結果、貴女の日ごろの勤務態度に問題があるという話が出ていてね」
「え? 私の日ごろの勤務態度?」
「ええ、このラパン修道院へ花嫁修業、行儀見習いに来た何人もの貴族令嬢、富商の息女からの訴えが、親御さんを通じ、枢機卿様へありました」
「え!?」
「修道院長! 貴女には身に覚えがあるでしょう?」
「そ、それは……」
「貴女の厳しいしごきに耐えかね、もう数十人もの女子が、花嫁修業、行儀見習いを完遂せず、途中でリタイアしていますもの」
「う、うぐ!」
「あまりにも厳しすぎるという貴女の悪しき評判があるそうです」
「あまりにも厳しすぎる!? そ、そんな馬鹿な! 私は皆様の為を思って!」
「それが『やりすぎ』だったのですよ。だから、貴女はもう退場。そして最後の確認を、このベアトリスが行うようにと、教皇様、枢機卿様、おふたりからのご指示を頂いております」
「う、うあ!」
「そして、『修道院長の進退を含め、ラパン修道院の改革を全て私に任せる』というご指示も頂いておりまあす!」
「そんなあああ!!?? わああああああんん!!」
いきなり役職を解かれ、ショックのあまり修道院長は脱力、
その場に「ぺたん」と座り込み、号泣してしまった。
だが、誰も後難を怖れ、修道院長を労わる者は居なかった……
ドラーゼ公爵家令嬢ベアトリスはラパン修道院へ、
ただ花嫁修業、行儀見習いに来ただけではなかったのだ。
修道院長の勤務態度に問題があり、『調査』にも来たらしい。
だいぶ『強引な進め方』なのだが、ベアトリスには『大きな権限』も与えられているようだ。
しかし……
泣き崩れる修道院長を見て、さすがにロゼールは哀れになり、同情した。
初めて出会った時こそ、「ひどく口うるさく厳しい人だな」と思ったが、
その後、言葉は厳しくても、
修道院長へは「くじけそうになる自分を支えてくれた」という感謝の念がある。
確かに、厳しすぎるがゆえに、修道院長は煙たがられている感はある。
しかし、「けして悪い人ではない」と、ロゼールは思うのだ。
レサン王国の騎士道には、8つの徳目がある。
忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕の8つである。
ロゼールは、その徳目を厳格に守り、騎士として精進を続けて来た。
目の前で泣き崩れる修道院長を見て……
ロゼールの心の中の、慈愛―『弱者に対する思いやり』が、
そして、寛容―『分け隔てなく与える愛情』が発動したのである。
ロゼールは、ぱっと、ベアトリスの下へ移動し、ひざまずいた。
「ベアトリス様!」
「うふ、なあに、ロゼール、かしこまって」
「そのご決定、しばしお待ち頂けませんか!」
「え? ちょっと、ロゼール! 待って!」
教育係のジスレーヌが、修道院長の二の舞になると、慌てて制止するが……
ロゼールは再度、
「ベアトリス様! 修道院長様の件、ご再考をお願い致します!」
と、ベアトリスへ向かい、頭を深く下げ、きっぱりと言い放っていたのである。
指名した『教育係』は、全くの想定外!
花嫁修業、行儀見習い者としてラパン修道院へ入ったばかりの見習いシスター、
ロゼール・ブランシュであった。
「え? わ、私!?」
戸惑うロゼールに向かって、ベアトリスは「びしっ!」と指をさす。
「そうよ! ロゼール・ブランシュ! 貴女が私の教育係よ!」
このような場合、レサン王国において、
格上の貴族やその親族に対し、詳しく理由を聞いたり、反論する事は基本許されていない。
身分が低き者は「はい! かしこまりました!」と、
快く従う事が、『美徳』とされていたのである。
しかし、さすがに、ロゼールは尋ねずにいられなかった。
「ベ、ベアトリス様! な、何故!? わ、私に!? きょ、教育係を!?」
「うふふ♡ 面白そうだから!」
「え!? お、面白そうだから!?」
「うふふ、貴女の噂は父上を始め、いろいろな人から聞いていたわ。騎士隊にモノ凄い女傑が居るって!」
「モノ凄いって、そ、そんな事は……ありませんが」
ロゼールがどう答えて良いのか迷い、口ごもると、
ベアトリスは悪戯っぽく笑った。
「うふふ、謙遜しないの。貴女は私の護衛も務める騎士隊の男どもを、馬上槍試合で、ほぼ全員打ち負かしたんですって?」
「は、はい……」
「ロゼール!」
「は、はいっ!」
「貴女って、『私と同じ匂い』がするわよ」
「ベ、ベアトリス様と!? わ、私が!? お、お、同じ!? 匂いっ!?」
ベアトリスは、父ドラーゼ公爵の指示でラパン修道院へ行く事となり、
事前に調査した結果……
かつて騎士隊の男子どもを撫で斬りにした、
ブランシュ男爵家の令嬢で、
元騎士、元女傑のロゼールが在籍していることを知った。
強靭な『オーガスレイヤー』たる公爵家令嬢ベアトリスも、
会った事のない女傑ロゼールに大いに興味を持ったのだ。
そして、自分の教育係に! と決めた次第……
お互いに興味を持ったこの『出会い』が、ふたりの運命を大きく変える事となった。
だがそれは、後々の話……
さてさて!
ここで修道院長が異を唱える。
ロゼールと同じく、これは掟破りの行動である。
「お嬢様っ!!」
「はい、何でしょう、修道院長さん」
「シスター、ロゼールは1か月前、当ラパン修道院へ見習いとして入ったばかり! お嬢様の教育指導が出来るとは到底思えません!」
修道院長はきっぱり言い放つと、ぎろっとロゼールをにらんだ。
「シスター、ロゼール」
「はい」
「はい、ではありません。今すぐ自分から辞退しなさい。未熟者の私では、ベアトリス様の教育係など、到底務まりませんと。そしていつもの仕事へ戻りなさい!」
ここで、ベアトリスが割って入る。
「ちょっ~と、ストップ。ジャストモーメントぉ! うふふ、修道院長さん、貴女、この私の指示をさえぎって、何、勝手に仕切ってるの? これはね、既に決定事項なのよ!」
「いえ! でも!」
「でも、じゃないの、決定なの」
「そんな! いかにお嬢様とはいえ! わ、私は修道院長として! と、到底! う、受け入れられませんっ!」
「はあい! 3度目で~す! ぶっぶ~! 3度目の反抗は私のマイルールで、NG決定よ」
「へ!? 3度目の反抗はNG決定!? どういう事でしょう?」
「ええ、修道院長さん! 貴女、もう退場!」
「た、退場!? って!?」
「分からないの? 文字通りよ。修道院長さん、いえ、『前』修道院長さん。貴女はたった今、修道院長ではなくなりましたあ」
「え!? ど、ど、どういう事でしょう?」
「まだ分からないの、『前』修道院長さん、貴女はたった今、退職決定! さっさと荷物をまとめて、この修道院から出て行ってね」
「いきなり! そんなっ! 横暴なっ! いくら名家ドラーゼ公爵家のお嬢様とはいえ、そのような権限はお持ちではありません! 枢機卿様に! いえ! 教皇様に! いえいえ! ご両名に訴えますわっ!」
「ぶっぶう~! 残念でしたあ!」
「残念!? そ、それは!? ど、どういう事でしょうか!?」
「どういうもこういうも、創世神教会本部が行った調査の結果、貴女の日ごろの勤務態度に問題があるという話が出ていてね」
「え? 私の日ごろの勤務態度?」
「ええ、このラパン修道院へ花嫁修業、行儀見習いに来た何人もの貴族令嬢、富商の息女からの訴えが、親御さんを通じ、枢機卿様へありました」
「え!?」
「修道院長! 貴女には身に覚えがあるでしょう?」
「そ、それは……」
「貴女の厳しいしごきに耐えかね、もう数十人もの女子が、花嫁修業、行儀見習いを完遂せず、途中でリタイアしていますもの」
「う、うぐ!」
「あまりにも厳しすぎるという貴女の悪しき評判があるそうです」
「あまりにも厳しすぎる!? そ、そんな馬鹿な! 私は皆様の為を思って!」
「それが『やりすぎ』だったのですよ。だから、貴女はもう退場。そして最後の確認を、このベアトリスが行うようにと、教皇様、枢機卿様、おふたりからのご指示を頂いております」
「う、うあ!」
「そして、『修道院長の進退を含め、ラパン修道院の改革を全て私に任せる』というご指示も頂いておりまあす!」
「そんなあああ!!?? わああああああんん!!」
いきなり役職を解かれ、ショックのあまり修道院長は脱力、
その場に「ぺたん」と座り込み、号泣してしまった。
だが、誰も後難を怖れ、修道院長を労わる者は居なかった……
ドラーゼ公爵家令嬢ベアトリスはラパン修道院へ、
ただ花嫁修業、行儀見習いに来ただけではなかったのだ。
修道院長の勤務態度に問題があり、『調査』にも来たらしい。
だいぶ『強引な進め方』なのだが、ベアトリスには『大きな権限』も与えられているようだ。
しかし……
泣き崩れる修道院長を見て、さすがにロゼールは哀れになり、同情した。
初めて出会った時こそ、「ひどく口うるさく厳しい人だな」と思ったが、
その後、言葉は厳しくても、
修道院長へは「くじけそうになる自分を支えてくれた」という感謝の念がある。
確かに、厳しすぎるがゆえに、修道院長は煙たがられている感はある。
しかし、「けして悪い人ではない」と、ロゼールは思うのだ。
レサン王国の騎士道には、8つの徳目がある。
忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕の8つである。
ロゼールは、その徳目を厳格に守り、騎士として精進を続けて来た。
目の前で泣き崩れる修道院長を見て……
ロゼールの心の中の、慈愛―『弱者に対する思いやり』が、
そして、寛容―『分け隔てなく与える愛情』が発動したのである。
ロゼールは、ぱっと、ベアトリスの下へ移動し、ひざまずいた。
「ベアトリス様!」
「うふ、なあに、ロゼール、かしこまって」
「そのご決定、しばしお待ち頂けませんか!」
「え? ちょっと、ロゼール! 待って!」
教育係のジスレーヌが、修道院長の二の舞になると、慌てて制止するが……
ロゼールは再度、
「ベアトリス様! 修道院長様の件、ご再考をお願い致します!」
と、ベアトリスへ向かい、頭を深く下げ、きっぱりと言い放っていたのである。