教育的(仮)結婚～残念御曹司（？）のスパダリ育成プロジェクト～

prologo

　ローマの空は、まぶしいくらい青い。

　日差しが強いせいだろうか、何もかも日本よりずっと鮮やかに見える気がする。
　そして石畳が続く街並みは、ため息が出そうなくらい美しい。

　つい駆け出したくなるような五月の朝。
　さわやかな風が吹く中、私は自転車を押しながら思いきり深呼吸した。
　長かった髪を最近ボブにしたためか、なんだか足取りまで軽く感じられる。

「なんて気持ちいい日！」

　ちょうどその時、コーヒーのいい香りが鼻先をくすぐった。

「ボンジョルノ、アミ。美しい朝だね」

　少し先にあるバール（コーヒーショップ）の前で、金髪の大柄な青年が手を振っている。
　その柔らかい笑顔を見て、私も明るく挨拶を返した。

「ボンジョルノ、ジャンニ！」

　自転車を停めて店内に入ると、ジャンニがすかさず窓際の席に案内してくれた。

　ジャンニは行きつけのバール、『ジーノ』のカメリエーレ（ウエイター）で、いかにもイタリア人らしく陽気で人なつこい。
　バールは基本立ち飲みが多いし、椅子席だと値段も少し高くなるが、私は出勤前にいつもここでひと息入れることにしていた。

「今朝もいつものエスプレッソとコルネットでいい？」
「ええ、お願い」
「了解。スミレの花みたいにかわいらしいアミのために、さっそくとびきりの一杯を淹れてくるからね」
「まあ、グラッツィエ。うれしいわ」
「イエイエ、アミサン。ドウイタシマシテ」

　精悍な顔立ちでマッチョな体型のジャンニと、たどたどしいカタコトの日本語――不似合い過ぎる組み合わせに、思わずふき出してしまう。
　彼が発音すると、亜実という自分の名前もなんだか外国語みたいに聞こえた。