教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 本来このお茶は熱湯だと、うまみよりも渋みが出て、色も少し濁ってしまう。

 だが東様は海外生活が長いようだから、日本の味が恋しいのだろう。熱くて苦いのがお好みなら、なんとかリクエストに応えたかった。

 私は鳥の子色をした千鳥模様の湯呑にお茶を淹れ、氷水がたっぷり入ったタンブラーも添えた。

 館内はエアコンが効いているが、今日はかなり蒸し暑い。外から来たばかりの東野様は喉が渇いているかもしれないと思ったのだ。

「あ、いけない」

 トレイを持ち上げようとして、おしぼりをのせていないことに気がついた。

 私はいったんトレイを下ろすと、大きく深呼吸した。らしくない失態に思わず苦笑してしまう。

(……やれやれ)

 今は自分ひとりだけだし、私はこの場を任されているマネージャーなのだ。

 せっかく訪ねてくれたクライアントにはここでの時間を楽しみ、心から満足して帰ってもらいたい。たとえどんなに見た目が怖くて、にこりともしない相手だとしても。

「よし!」

 私はもう一度深く息を吐き、背筋を伸ばして、きびきびと動き始めた。
< 11 / 128 >

この作品をシェア

pagetop