教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
Dolce Vita を二人で  da 林太郎
 もちろん俺だってちゃんとわかっていた。高砂屋百貨店の『エクセレント・ラウンジ』がどんなところかも、たとえ客であっても予約なしに入ってはいけないことも。
 実際に、ローマでそのシステムを体験しているのだから。

 だが、あの田島という男が亜美と一緒にいると思うと、平静ではいられなかった。

 今朝は、ちょうどいつものカフェに入ろうとした時に、ラウンジからスタッフらしい女性が出ていくのが見えた。
 それと入れ替わるように、中に入っていったのが田島だ。

(大丈夫だろうか?)

 カフェに入って、コーヒーを注文してからも、ずっと気持ちがざわついていた。
 俺の勘違いでなければ、ラウンジの中にいるのは二人だけかもしれないからだ。


 ――本日もたくさんご予約いただいておりますし、お客様にご迷惑をおかけするわけにはまいりません。

 さっき声をかけた時、亜美ははっきりそう言いきった。
 しかしその客のひとりが田島であることは知らないはずだった。

 いくら数年前の事件とはいえ、二人の間には確かにトラブルがあったのだ。
 彼女は今でもそのことを引きずっているかもしれない。そんな相手といきなり再会して、しかも客としてマンツーマンで長時間じっくり対応するなんて……。

 もちろん亜美は懸命にがんばるだろう。
 彼女は仕事に誇りを持っているし、いつだってベストを尽くそうとする。だけど――。
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