教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
正直、亜美が当時どれほど怖かったか、今そのことをどう思っているか、俺には想像できない。
ただ、平気でいられるはずがないことだけはわかった。
それに田島はあえて自分の名前を伏せて予約した。「彼女を驚かせたい」とか言っていたような気がするが、それも気に入らない。
そばに誰かがいてくれればいいが、もしそうでなかったら?
(だめだ、絶対!)
気づいた時には俺はコーヒー代をテーブルに投げ出して、カフェを走り出ていた。
田島がラウンジに入ってから、どれくらいたっただろう? 十分、いや、十五分か?
時計を確かめる余裕もないまま、『エクセレント・ラウンジ』の前に立つ。
客のプライバシーを保証する重厚な扉が、今はいやに威圧的に見えた。
「あの、お客様? どうかなさいましたか?」
店員のひとりが背後から、恐る恐るという感じで声をかけてきた。たぶん俺はかなり険しい顔をしていたのだと思う。
もしかしたら心配し過ぎかもしれない。亜美は意外に普通に接客していて、俺がラウンジに入れば、彼女を困らせるだけかもしれない。
このままおとなしく引き返した方がいいのかも……。
俺は迷いながらも、金色のドアノブを握る。
すると店員はますますうろたえた様子で、「お客様」と呼びかけてきた。
「お客様、こちらは――」
「すみません」
俺は背を向けたまま軽く頭を下げ、ノックもせずにドアを押し開けた。
ただ、平気でいられるはずがないことだけはわかった。
それに田島はあえて自分の名前を伏せて予約した。「彼女を驚かせたい」とか言っていたような気がするが、それも気に入らない。
そばに誰かがいてくれればいいが、もしそうでなかったら?
(だめだ、絶対!)
気づいた時には俺はコーヒー代をテーブルに投げ出して、カフェを走り出ていた。
田島がラウンジに入ってから、どれくらいたっただろう? 十分、いや、十五分か?
時計を確かめる余裕もないまま、『エクセレント・ラウンジ』の前に立つ。
客のプライバシーを保証する重厚な扉が、今はいやに威圧的に見えた。
「あの、お客様? どうかなさいましたか?」
店員のひとりが背後から、恐る恐るという感じで声をかけてきた。たぶん俺はかなり険しい顔をしていたのだと思う。
もしかしたら心配し過ぎかもしれない。亜美は意外に普通に接客していて、俺がラウンジに入れば、彼女を困らせるだけかもしれない。
このままおとなしく引き返した方がいいのかも……。
俺は迷いながらも、金色のドアノブを握る。
すると店員はますますうろたえた様子で、「お客様」と呼びかけてきた。
「お客様、こちらは――」
「すみません」
俺は背を向けたまま軽く頭を下げ、ノックもせずにドアを押し開けた。