教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 しかし一方の田島は気持ちがおさまらないらしく、腕組みをして「最低だな」と吐き捨てた。

「田島様!」
「まさか天下の高砂百貨店で、こんなふうに侮辱されるとはね。せっかく完全予約制のラウンジでショッピングを楽しもうと思ったのに、いきなりスタッフの彼氏が怒鳴り込んできて脅かされたんだぞ。ありえないだろ?」
「本当に申しわけありませんでした!」

 田島は肩をすくめると、勝ち誇った様子でソファにふんぞり返り、見せびらかすように長い脚を組んだ。

「だいたい桐島さんは謝罪してくれてるけど、その人はただボーッと突っ立ってるだけだよね。それって、いい大人としてどうなんだろう?」
「ですが、この方は当社の者ではございませんから」
「でも社会人なんでしょ、彼だって? だったらちゃんと頭を下げてほしいよね。僕は彼のせいですごく不快な思いをしたんだから、土下座くらいしてくれてもいいんじゃないの?」
「田島様!」

 亜美はかなり動揺していたが、俺はいっこうにかまわなかった。
 結局やらかしてしまったが、攻撃の矛先が彼女から俺に変わったことで、胸を撫で下ろしていたのだ。

「わかりました。しますよ、土下座」
「林太郎さん、だめです! やめてください!」

 膝を曲げかけたまま、俺は一瞬だけ硬直した。亜美が「東野様」ではなく、前みたいに「林太郎さん」と呼んでくれたからだ。

「……亜美」

 それにつられて、俺も亜美の名を呼び捨てにした。
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