教育的(仮)結婚～残念御曹司（？）のスパダリ育成プロジェクト～

「まあ、確かにおっしゃるとおりですね。こいつはほんとに困ったヤツなんで」
「えっ？」

　ふいに敬ちゃんの口調が変わり、田島も亜美も、それから俺も驚いて彼を見た。

「だけど実際のところ、たいした被害はなさそうだから、土下座はどうかと思うけど。それに田島くんだって後から後悔するかもしれないしね」
「た、田島……くん？」

　急に「様」から「くん」へと呼び方を変えられ、田島は明らかにいらついた様子を見せた。

「そ、それってどうなんですか？　いくら僕が後輩だからって、今日はひとりの客として、ここに来てるんですよ！」
「まあね。でもほら、カスハラって言うでしょ。いわゆるカスタマーハラスメント。お客様の中にはそれでブラックリストに載っちゃう人もいるし……うちの桐島の場合はどうだったんでしょうね」

　敬ちゃんは脅されてもいっこうに怯まないどころか、不敵に笑ってみせた。

「カスハラって……ひどいな。まあ、僕にも多少失礼なところはあったかもしれないが、この男は別ですよ。こうなったら、絶対土下座してもらわないと！」
「いや、田島様。それはあまりお勧めいたしかねます。というより、全力でお止めします」

　敬ちゃんが再びわざとらしい敬語を使い始めたからか、田島は怒りで真っ赤になった。

「な、何なんです？　こいつを土下座させて、どうして俺が後悔しなきゃいけないんですか？」
「そうだぞ、敬ちゃん。これは俺とこの人の問題なんだから、もう放っておいてくれ。俺が土下座すれば済む話なんだから」

　おかしな話だが、俺は田島をかばいたくなった。やり込められている彼がなんだか気の毒になってきたのだ。