教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 確かにサイズが合えば問題はないかもしれない。
 しかし実際に着用した時のラインや丈、幅の具合など、微妙なところでまったく印象が変わるのが紳士服というものだ。

 このサロンでなら、オーダーメイドでなくても彼に最も似合う一着を探すのは可能だし、お見合いを成功させるためにも絶対そうするべきなのだ。

 けれども東野様はメガネをかけ、書類とスマートフォンをしまうと、伸びをしながら立ち上がった。そのままさっさと背を向けてしまう。

「どうも」

 いったん帰ると決めた客を止め置くすべはなかった。

 滞在時間はおよそ十五分。この『サローネ・エッチェレンテ』開設以来の最短記録だ。

「どうも……ありがとうございました。どうぞよい一日を」

 結局、仕事らしいことは何もできなかった。言葉もほとんど交わしていない。

 私はなかば呆然としながら、広い背中を見送ったのだった。
< 17 / 128 >

この作品をシェア

pagetop