教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
困惑のローマ
 ローマに来て二日目、俺はメガネを押し上げ、目をこすりながら部屋を出た。

「ふぁ……」

 昨夜も遅くまで資料を読んでいたため、あくびが止まらない。 

「……ったく」

 正直、俺はかなり機嫌が悪かった。

 だいたいどうしてこんな忙しい時期に休暇を取って、ローマなんかに来なければいけないのだろうか。本来ならば、今は新薬開発のために一分だって無駄にしたくないのに。

 もちろんここで見合いがあることは承知している。
 だが、どうせ結婚はほぼ決まっているのだ。なにしろ相手は某メガバンクの重役令嬢だ。
 うちの今後の事業展開を考えれば、ゴールはひとつしかあり得なかった。

 だから結婚式まで花嫁の顔を知らなくても俺は全然かまわないし、どうしてもというならスイスで数時間会うだけでよかったはずだ。半日観光して、一緒に晩めし――それで十分だろう。

 それをわざわざ一週間の休暇を取って、イタリアで新しい洋服を揃え、見合い相手と二日も過ごさなければならないなんて。

「面倒だ」

 とはいえ、残念ながら抵抗は許されなかった。
 今回の件は、父から強いプレッシャーがかけられていたのだから。

 ――いいか、林太郎。このままパージェスで研究を続けたければ、真剣に身を固めることを考えろ。それが嫌なら、すぐにも帰国だ。正式な跡継ぎとして、研究から経営の方にシフトしてもらうからな。
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