教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 スイスの『パージェス・S・A』は俺がずっとあこがれていた、世界でも屈指の製薬会社だ。
 大学院の研究室の推薦と父の紹介でやっと働けるようになったのだから、どうしても中途半端なところでやめたくなかった。

 ――私だって今すぐ結婚しろとはいわない。しかしお前ももう三十三だ。自分で相手を見つけられるとも思えんし、そろそろ将来のことも考えてもらわんと困る。もちろん、わが東林製薬のことも。

 父のいうこともわからないわけではなかった。
 本来であればとっくに経営陣として会社に入っていなければならないのに、こうして好きにさせてくれているのだから。

 俺は確かに跡取りだし、会社に戻れば副社長の椅子が待っている。
 父だっていつまでも元気でいられるわけでないこともわかっていた。

 だが見合いはまだ先だし、今日はパージェスの同僚が紹介してくれたローマ・ラ・サピエンツァ大学の教授と会うつもりだが――。

「ふぁあ……やばいな。あくびが止まらないぞ」

 こういう時、俺の場合はコーヒーより熱くて苦い日本茶の方が効く。

「そういえば……」

 昨日行ったデパートの日本茶には心底驚かされた。熱さも濃さも好みにピッタリで、久しぶりに心からうまいと思ったのだ。
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