教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「あれ? 僕の日本語、どこかおかしかった?」
「ううん、とてもじょうず」
「グラッツィエ、すてきなシニョリーナ」

 私は微笑みながら、ジャンニの背中を見送る。

 朝食はここでと決めているので、毎日のように通っているうちに、頬が赤くなりそうな挨拶にも少しずつ慣れてきた。
 日本にいたころの自分だったら、ただドギマギして固まっていただろうけれど。

「お待たせ、アミ。ところで今日のジャケットもすごくすてきだね。さすがは……さすがは……あれ? えっと、何だっけ、君の東京でのタイトルは?」
「ああ、TGAよ。タカサゴ・ゲスト・アテンダント」 

 TGAは、私が春先まで勤めていた高砂百貨店の専門職で、お客様を的確にサポートするため、豊富な知識と経験が求められる販売員だ。

 さまざまな研修や資格試験を経て、ようやく獲得できるタイトルだが、私の担当はメンズ部門。
 店頭にはネクタイなどの小物からスーツに至るまで、さまざまな売り場がある。TGAはその紳士服フロア全体をカバーしていた。

 おしゃれが大好きなジャンニは日本のメンズファッションにも興味があるので、私たちはそういうおしゃべりをすることも多い。そんな彼のシャツはいつだって真っ白で、パリッと糊が効いていた。

「そうそう、TGA! とにかくそのジャケットは最高だよ」
「グラッツィエ、ジャンニ。ほんとに優しいのね」

 シルバーにも見えるペールグレーのリネンジャケットは今シーズンのもので、今日初めて袖を通した。

 私が新しい服を着ていると、ジャンニは目ざとく気づいて、必ずほめてくれる。髪型を変えた時だって、「すごく似合うよ」と何度も言ってくれた。
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