教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 ――ですが、東野様。

 ふいに、お茶を淹れてくれた女性の顔が浮かんできた。
 小柄で華奢なのに不思議に存在感があって、何と呼ぶのかわからないが、短めのヘアスタイルがよく似合う人だった。

 しかも彼女に名前を呼ばれて、大きな目で見つめられた時は、なぜだか心臓が大きく跳ねた。

「たしか桐島――」

 いつもは誰かに名刺をもらっても、どこかに置き忘れてしまう。しかし彼女のものは手帳に挟み、名前まで覚えている。幼なじみがわざわざ紹介してくれたからかもしれないが、こんなことは初めてだった。

 それなのにサロンでの服選びなんて時間の無駄としか思えず、眠かったせいもあって、早々に帰ってきてしまった。

 だが……桐島さんとはもう少し会話するべきだったかもしれない。
 というか、もう少し彼女と話をしてみたかった。
 それに一着くらいなら試着もすればよかったのだ。いろいろ用意して、俺を待っていてくれたのだから。

 ホテルに服を届けるように頼んだが、おそらく配送は彼女の担当ではないだろう。そう思うと、なんだか残念な気がした。

(また会えるだろうか?)

 いや、もちろん会える。あの百貨店に行きさえすれば、客として丁寧に応対してもらえるはずだが……。
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