教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 俺はまた自分の失言を悟った。

 桐島さんが大きく目を見開いて固まってしまったからだ。ただ彼女の手間を省いてやりたいと思っただけなのだが――。

「東野様」

 桐島さんは真顔になって、「それはおすすめできかねます」と大きくかぶりを振った。

「無礼を承知で申し上げます。実は本店の高砂から今回のバカンスについて説明されたのですが……東野様はこれから大切なお見合いを控えておられるとか」
「いや、ま、まあ」
「今後の人生がかかっている場にいらっしゃるのですよ。それでしたら最高の状態で臨んでいただかなくては」
「最高の状態?」
「どうかお見合いの日にはすてきな装いで、お二人でおいしいお食事を召し上がって、すばらしいひとときを過ごしていただけませんか? 微力ながら、わたくしにそのお手伝いをさせていただきたいのです。せっかくこの美しいローマにお越しいただいたのですもの」

 真摯で、妙に説得力のある口調。

 かわいらしい桐島さんの意外な一面を見せられ、俺はますますしどろもどろになってしまう。

 どうせ結果は変わらないのだから、格好などたいして気にしなくてもいいと思っていた。見合いそのものも適当に済ませるつもりだった。

 洋服は着られればそれでいいし、食事だって栄養を取れれば充分だ。
 研究のためには、いちいちそんなことで悩む時間などない――そんな俺のポリシーはもしかして間違っていたのだろうか?
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