教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 もちろんそんなものを前にして、カフェで誰かと話をするのも、初めてのことだった。それも三十分以上も。

 だからといって俺たちは周りにいるイタリア人たちのように、ひっきりなしにしゃべっていたわけではない。

 それでもなぜか話題は尽きなかった。
 ほとんどは見合いの時に行くべき観光スポットについてだったが、互いの仕事や住んでいる町のこと、休日の過ごし方なんかもポツポツ語り合った。

 もっともそれは俺が彼女にきっちり注意されたせいもある。

 ――東野様、本当にお忙しいとは思いますが、どなたかとご一緒の時はよほどのことがなければ、スマホはチェックなさらないでください。文献を読むのもお控えください。たいへん失礼ですから。それから相手の方が席を立たれても、この前みたいにタイマーをかけてお眠りにならないでくださいね。きっとびっくりされてしまいます。

 言われてみれば、そうかもしれないと思った。となれば、今は桐島さんとしゃべるしかない。

 その時、金髪で男前のウエイターが小さな焼き菓子がのった皿を持ってきた。

「アローラ(どうぞ)」

 俺たちは追加の注文はしていない。
 桐島さんは怪訝そうにしていたが、ウエイターと少し話してから笑顔になった。彼とは顔馴染みらしく、楽しそうに言葉を交わしている。
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