教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「どうしました?」
「あ、いえ、実は少し驚いているんです」
「えっ?」
「私はもともと話上手な方ではなくて……仕事でお客様とお話しするのは大丈夫ですが、プライベートだと初めて会う人とおしゃべりするのは苦手なんです。それなのに東野様とこんなふうにお話が弾むのが不思議で……あ、もちろん東野様はお客様なんですけど」
「なるほど」

 実は俺も同じことを思っていた。

 いや、それだけじゃない。桐島さんと会ってから、どういうわけか何もかもが今までの自分と違ってしまった。 
 たまに彼女から目が離せなくなって、鼓動が速まり、胸苦しくなるような時さえある。

 だが、その理由がよくわからなかった。

 相手が桐島さんだからなのか。それとも彼女と会ったことで、俺の中で何かのスイッチが入ったからなのか。
 もしかしたら見合いの相手と結婚してからも、これからは今みたいに楽しく過ごせるのだろうか。

(結局、どうなんだ?)

 俺がグルグル考えていると、桐島さんが腕時計に視線を落とした。

「たいへんお待たせいたしました、東野様。そろそろお店が――」
「桐島さん!」

 彼女が全部言い終える前に、俺は椅子から立ち上がっていた。

「あ、あの、東野様、どうかなさいましたか?」
「お願いがあります! 俺と、け、け、け――」
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