教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 足を止めたいのに、目覚めたいのに、どうすることもできない。夢の中の自分は心から散歩を楽しんでいるからだ。

 もちろん待ち受けている罠にもまったく気づいていない。今すぐ立ち止まって引き返さないと、たいへんなことが起こるのに。

 突然、目の前が暗くなった。大きな影が差し、驚いて視線を上げる二十歳の自分。

 すぐ前に、背の高い男が立っていた。大きな木の陰で私を待っていたらしく、強い光を放つ目が射るような視線を向けてくる。

「お、おはようございます」

 その日の私は戸惑いながらも、いきなり現れた男に頭を下げた。相手は部活の先輩だったからだ。しかし、

「えっ」

 私はまじまじと目前の人物を見つめた。

(違う!)

 そこに立っていたのは、いつも夢に出てきて、私を苦しめる男ではなかった。

 同じように背が高くて、近寄りがたい印象ではあったが、彼の髪はこんなにボサボサしていなかったし、ここまでヤクザみたいに不穏な感じではなかった。
 そもそもすごくおしゃれで服装に気を遣う人だったから、量販店のシャツを着たりするはずは――。

「東野様?」

 私は声を上げて、跳ね起きた。
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