教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
(夢を、見ていたんだわ。だけど……)

 間違いなかった。夢の中にいたのは東野様だ。

 混乱したまま周囲を見回すと、カーテンの隙間から明るくなり始めた空が見えた。
 夜明け少し前、見慣れた自室はブルーグレーに沈んでいる。

 私は、顧客になったばかりの東野林太郎様の夢を見てしまったのだ。そんなことは入社以来、初めての経験だった。

「……何で?」

 驚き過ぎて、ため息しか出てこない。

 それでも気持ちはふしぎに楽だった。
 いつもならあの夢を見た後は取り乱して、しばらく動くことさえできなくなってしまうのに。

「本気で迫力あるから……東野様って」

 悪夢さえも追いやってしまう強烈な存在感。
 そんな猛獣めいた迫力があるくせに、サロンで目にした寝顔は意外なほど幼かった。

 彼のことを思い出すと、なんだかおかしくなる。今もあんなふうに無防備に眠っているのだろうか?

 私は苦笑しながら、閉まっているドアに視線を投げた。

 あの向こうにはリビングルームがある。
 東野様はそこのソファで、毛布にくるまって寝ているのだった。そう、このローマの私の家で。
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