教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「俺とけ、け、け、結婚してください!」

 バールで東野様に懇願された時は、一瞬頭が真っ白になった。

 よりにもよって突然プロポーズされてしまったのだ。会ったばかりで、知っているのは名前と勤務先くらい。
 いや、正確には肩幅や身幅やウエストサイズもわかるけれど……とにかく私は彼のことはほとんど知らないのに。

 というか、それ以前に東野様は大切なお客様、しかも特別案件なのに。

 私が反応できずに固まっていると、立っていた東野様はひどく慌てた様子で「もちろん形だけで」とつけ加えた。そして「頼むから助けてほしい」と。

 その結果、彼はスーツケースを持って、ホテルからここに移ってくることになったのだ。

 お会いしてすぐわかったが、東野様は基本的に言葉数が少ない。その自覚はあるみたいだが、別にそれを気にしているとは思わなかった。

 ところがその簡潔過ぎる発言から察するところ、どうやら間近に迫ったお見合いが急に不安になってきたようなのだ。

 これまでの東野様は他人と業務外の会話をしたことがなく、それでも特に問題はなかったそうだ。けれどもお見合い、さらに結婚となると、現状のままではまずいと思ったらしい。

 確かにほとんどしゃべらない相手とずっと一緒にいるのは、かなりどんよりするだろう。

 ――だが、桐島さんとはうまく意思疎通できた。

 私もあまり話好きな方ではないが、確かに東野様とはそれなりに会話が弾んだ。それで彼の考えが変わったのかもしれない。
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