教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 東野様は小学生の時にお母様を亡くされている上、ひとりっ子で、こらまで誰かと交際したこともないそうだ。
 もともと他人に興味がなく、まして女性とはまったく接点がない。

 だからデートや結婚生活については見当もつかず、その疑似体験をしたいというのだった。私となら多少なりともやり取りができるかららしい。

 ――節度は守る。約束する!

 そう口にした東野様の顔は真っ赤で、声も上擦っていた。

 ――頼む! 何でも桐島さんの言うとおりにするから、いろいろ練習させてほしい。

 直立不動で拳を強く握り、肩にも思いきり力が入っていた。

 あの時の東野様を思い出すと、つい笑ってしまう。
 あいかわらず強面全開だったが、妙にかわいらしかったのだ。

(節度か)

 きっとキスや、それ以上の行為をするつもりはないと言いたかったのだろう。

 出会って間もないけれど、東野様がまじめで誠実な人であることは間違いない気がした。彼の幼なじみである高砂副社長も「あいつは馬鹿がつくくらい正直だ」と言っていたし。

 そんな人から深く頭を下げて頼まれたのだ。
 しかも彼のお見合いを成功させるというのは、もともとのミッションでもあった。

 東野様は磨けば確実に光り輝く原石だ。ダイヤにたとえるなら、どこかの国の王冠を飾っていてもおかしくないほどの。
 それなのに土まみれのまま道に転がっているような今の状況には、私だって納得できない。

(やっぱり断れないよね)

 かなり突飛な依頼ではあったが、私は最終的に頷いた。そして仮の夫婦という微妙過ぎる関係で東野様と一緒に暮らすことになったのだ。
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