教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 その朝、私たちは八時過ぎに家を出た。
 もちろん東野様の格好は昨日までとはまったく違う。

 私が彼のために選んだコーディネートは、黒のオープンカラーの半袖シャツと、ややストレッチがきいたペールグレーのアンクル丈のパンツ。足下は白いスニーカーというスタイルだ。
 一日中歩き回る予定なので、まず動きやすさを優先したのだ。

 どのアイテムもごくシンプルなものばかりだが、長身で胸板も厚く、いかにも男らしい東野様が着ると、ため息が出るほど決まって見えた。
 出がけに顔を合わせたパオラが「ベリッシモ!」と感嘆の声を上げたのだから。

 黒縁のごついメガネはあえてそのままにしたが、それも意外にいいアクセントになっている。

 寝癖で跳ねまくっていた髪は、昨日のうちに近くのバルビエーレ(理髪店)で短めにカットしてもらった。さらに制服のように愛用していたチェックのシャツも封印した。

 その結果、東野様はどこから見ても文句なしの男前に変身を遂げたのだった。ただ、きつ過ぎる視線だけはどうしようもなかったけれど。

「ペルフェット(完璧)!」

 いつものように立ち寄ったバールでも、ジャンニが大げさなくらいほめてくれた。
 彼は昨日ちょっと残念な状態の東野様に会っているから、よけいにこの仕上がりに驚いたのだろう。
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