教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 肝心の東野様は今ひとつ反応が薄かったが、とりあえず不満はないようだった。今もコルネットとエスプレッソを前に、子どもみたいに目を輝かせている。

(本当に甘いものがお好きなのね。今日はジェラートのお店にも寄らなくちゃ)

 東野様は見た目がハードな上に無口だから、とても近寄りがたい感じがする。
 けれども実際は決して乱暴でも傲岸不遜でもなかった。

 しかも意外に素直で、一度注意してからは私といる時はスマホで文献をチェックしたり、資料を読んだりすることはいっさいなくなった。
 もちろん隙間時間に眠ったりもしない。

 今ではだいぶ慣れてきたのか、ごくたまに笑顔も見せてくれる。

 するとそのたびに、なぜか私の心臓が小さく跳ね上がるのだった。

(イケメンって……怖い)

 仕事柄、容姿端麗な男性は見慣れているはずなのに。

 とはいえ、これからお見合いを控えている相手にときめいている場合ではない。しかも彼が近いうちに結婚することはほぼ確実なのだから。

 私は気持ちを切り替えようと、営業用の笑顔で東野様に話しかけた。

「東野様、今日の予定ですが」
「それ、やめませんか」
「えっ?」
「俺たち……夫婦だし」

 東野様は私をまっすぐ見つめて、「仮だけど」とつけ加えた。

「名前、林太郎なんで」
「あ、あの」

 つまりこれからは林太郎と……呼んでほしいということだろうか?
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