教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 私があっけに取られていると、東野様はいきなり「亜実さん」と私の名前を呼んだ。

「えっ? あ、はい」
「俺も、そう呼びますから」
「わ、わかりました、り、林太郎さん」

 林太郎と亜美。

 ただ呼び方が変わっただけなのに、胸の鼓動がうるさいくらい大きく、速くなっていく。さらに頬まで熱くなってきた。
 自分は今、どんな顔をしているのだろう?

(何で慌てるの? 落ちつかなきゃ)

 慌てる私をよそに、林太郎さんはうれしそうに微笑んでいた。

「よろしく、亜実さん」
「……こちらこそ」

 急に東野様、いや、林太郎さんをまともに見ることができなくなった。

 お客様と視線を合わせない接客なんてありえない。
 もしここが高砂百貨店のフロアだったら、たちまちバックヤードに連れていかれて、上司から厳しく叱責されるだろう。

「で、では、これからの予定ですが――」

 私は視線を落として、エスプレッソを口に運んだ。今日の観光プランを説明しながら、なんとか自分を落ち着かせようとしたのだ。

 だが正直、それからの私はずっとどこか上の空だった。
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