教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 とたんに林太郎さんが目を輝かせたので、私までうれしくなった。

「いいな、それ」
「行きましょう!」

 気持ちがはやって、つい早足になる。

 けれどもこのローマでは、いろいろ気をつけなければいけないことがあった。
 まず人がとても多いので、スリや置き引きに注意しなければならない。

 それから実は、趣のある石畳の道も意外に危険だった。
 この『サン・ピエドリーニ』(石畳)は文字どおり小さな石が敷き詰められていて、隙間もあり、けっこう歩きにくい。
 さらに雨が降れば、ツルツル滑るのだ。

 私も最初は苦労したし、靴のヒールをだめにしたこともある。だが今ではすっかり慣れたはずだったのに。

「あっ!」

 突然、スニーカーの先端が小さなくぼみに引っかかった。
 大きくバランスが崩れて、前のめりに倒れそうになったが――。

「危ない!」

 しかし私が転ぶことはなかった。林太郎さんがとっさに腕をつかんでくれたのだ。

「あ、ありがとうございます」
「大丈夫か? やっぱり調子が悪いんじゃないのか?」
「いえ、ちょっとつまずいただけですから」

 林太郎さんは私に探るような視線を向けてきたが、やがて肩を竦めて腕から手を離した。

「わかった。じゃあ行こう」
「はい」

 頷いて、歩き出そうとして……私はその場に固まってしまった。
< 41 / 128 >

この作品をシェア

pagetop