教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 そんな気持ちが顔に出たのだろうか。
 ふいに亜美さんが俺を見上げて、声をかけてきた。

「林太郎さん」
「はい」
「せっかく背がお高いんですから、背筋を伸ばしてください。大丈夫です。今日もとてもすてきですよ。ピンクがよくお似合いです」
「あ、どうも」

 そう、今日の俺はなんと薄いピンク色のシャツを着ているのだ。
 ところどころに刷毛で塗ったような白い模様が入っているが、亜美さんによると、この色はダスティピンクというらしく、今履いているグレーがかったジーンズとよく合うそうだ。

 これまで洋服なんて何でもいいと思っていたが、亜美さんにほめてもらえると、明らかに気分が上がった。

 彼女の方は白地にいろんな色の花模様が散ったワンピース姿で、いつも以上に目を奪われてしまう。

 今日はかなり早起きして、ヴァチカン美術館の中庭で朝食を食べた。ここもふだんは混雑するらしいが、朝食つきツァーに参加すると、早く中に入れるのだ。

 その特権を利用して、俺たちは礼拝堂や絵画館などをゆったり回ることができた。
 しかし九時を回ると急に観光客の数が増えて、今はけっこう混雑している。

「システィーナ礼拝堂はいかがでしたか?」
「よかった……と思う」
「うれしいです。早朝のツァーはお見合い向きじゃないとは思ったんですけど、人でごった返していないところを林太郎さんに見てもらいたかったから」

 それから亜美さんは肩をすくめて、「本番でどうするかは林太郎さんにお任せします」と微笑んだ。
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