教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 散歩が好きなんて、彼女に会う前の自分だったら、とうてい理解できなかっただろう。
 でも今の俺はこうしてのんびり歩いているし、それを心から楽しんでいる。

 そんな自分に驚いていた時、亜美さんのスマホが鳴った。

「出てくれ。急ぎの用だといけないから」

 強制バカンス中の俺と違って、彼女は俺のために仕事を休んでくれている。勤務先から突然の連絡が入ることだってあるだろう。

「あら」

 亜美さんは少し驚いた様子で「高砂さんからです」と呟いた。

 高砂敬三は俺の親友で、今回の見合いを心配し、ローマの百貨店とそこで働く彼女を紹介してくれた。
 はじめはありがた迷惑に感じていたが、今では恩人……かもしれないと思い始めている。

「スピーカーホンにしますね」

 亜美さんがスマホを操作すると、「すごいな、桐島!」と興奮した声が聞こえてきた。
 日本との時差を考えると、向こうはまだ朝。それもけっこう早い時間のはずだが。

「送ってくれた東野の画像を見たよ。いやもう驚き過ぎて、電話をかけずにいられなかったんだ。あれはもう別人だ。本当によくやったな。あのセンスゼロの野獣をよくもあそこまで変貌させてくれ――」
「あ、あの、高砂さん!」
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