教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
(敬ちゃんが知ったら、ただじゃ済まないな)

 もちろん俺だって、亜美さんに礼がしたいとずっと思っていた。
 だが何をしたらいいかわからず、ちょうどそのリサーチを始めたところだったのだ。

 改めて亜美さんを見やると、笑みを浮かべて頷いてくれた。

「高砂先輩ったら、こんな時間に電話をくれるなんて、本当に驚いたんですね。でも、うれしいです。林太郎さんのビフォーアフターが成功したってことですもの」

 口では「うれしい」と言いながら、その笑顔はなんだか寂しそうに見えた。

(何だ?)

 もしかして気のせいだろうか? 感情の機微に疎いせいで判断ができず、俺は目をしばたたく。

 いったいどうしたら彼女は喜んでくれるのだろう? どんな礼をしたら、うれしそうに笑ってくれるのだろう?

(そうだ)

 俺は身を乗り出し、「どこだ」と訊いた。

「えっ?」

 突然の質問に目を丸くする亜美さんに、俺はさらにたたみかける。

「亜美さんは歩くのが好きなんだろう? 今まで行った場所で、どこが一番好きなんだ? ローマで、いや、イタリアでもいい」
「一番好きなところ?」
「どこかあるだろ?」

 具体的なプランがあったわけではない。それでもそう訊くことで、何か思いつきそうな気がしたのだが――。
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