教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
わけありのローマ
(うわっ!)

 極道――その人の第一印象は、まさにそれだった。
 いやいや、ここはイタリアだから、マフィアと言うべきかもしれない。

 とにかく彼、東野林太郎様を見た途端、私はそのまま後ずさりしそうになった。

 もちろん人を見かけで判断してはいけない。まして相手がお客様ならなおのことだ。
 しかも東野様は副社長絡みの特別案件なのだ。

 とはいえ、ドアを開けて入ってきた彼の圧はかなりのものだった。

「いらっしゃいませ」

 それでも次の瞬間には、私は柔らかく微笑みながら深々と頭を下げていた。
 当然ながら声も震えないし、ぎこちなくつかえるようなこともない。

 プロ根性のたまもの、いや、ほとんど条件反射だろう。

 私は入社して五年目になる。これまでたくさんのお客様に接して場数は踏んでいるし、本店のTGAだというプライドもある。
 何より業界トップの売り上げを誇る高砂百貨店は、徹底した社員教育で知られているのだから。

「東野林太郎様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました」

 私がにこやかに歩み寄ると、相手は無言のまま頷いた。

 二コリともしないが、否定はしないから、やはり彼が今日の予約客なのだろう。決して通りすがりのどこかの組員さんなどではなくて。
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