教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「今日のアミは珍しくぼんやりしてる。なんだか元気がないみたいだし」
「あ、ご、ごめんなさい。少し考えごとをしていたの」

 プラチナブロンドが美しいロザンナは肩を竦めて、私の肩を叩いた。

「もし体調が悪いなら帰ってもいいのよ」
「ううん、私は元気よ。もう二日も休んじゃったし」
「だって、それって半分は仕事みたいなものでしょ?」
「ロザンナの言うとおりよ、アミ」

 奥から出てきたもうひとりの同僚、赤毛のラウラも近づいてきた。ちょうど出勤してきたところで、私たちのやり取りが聞こえらしい。

 彼女もロザンナも私より年上で、この店のベテラン販売員だ。
 二人とも『サローネ・エッチェレンテ』の担当にふさわしく、いつもスタイリッシュに決めている。

「まあ、ラウラまで」
「ねえ、アミ。無理しちゃだめよ。あなただって私たちが困っていると、いつも手伝ってくれるでしょ?」
「それはそうだけど――」

 どちらも家庭を持っているから、急なトラブルはつきものだ。そんな時は私がカバーするが、彼女たちはそのことを言っているのだろう。

「本当に大丈夫よ。でも、ありがとう」

 二人に気遣われたことで、かえって気持ちが落ち着いた。

 今、私の心は林太郎さんでいっぱいだ。
 それでも切り替えなければならない。彼は決して手に入らない人なのだから。
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