教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
(……なるほどね)

 私はこっそりため息をついた。彼がどうして特別案件なのか理解できた気がしたのだ。

 送られてきたデータどおり、東野様は長身で、やや細身。手足が長く、腰の位置も高い。
 いわゆるモデル体型で、そのままファッションショーのランウェイを歩けそうなほどスタイルがよかった。

 肌はうっすら日焼けして、高い鼻梁や少し肉厚な唇が精悍さを感じさせる。
 とにかくどこから見ても、文句なしの美形だ。

 それなのに……彼の仕上がりは驚くほど残念なものだったのだ。やたら迫力がある男前なだけに、そのギャップはとんでもなかった。
 もし私がイタリア人だったら、大きく肩を竦めて「マンマミーア!」と呻いてしまいそうなくらいに。

 副社長からは、東野様は一流大学で薬学の博士課程を終え、今はスイスの製薬会社で働く気鋭の研究者だと聞かされていた。
 ところが目の前にいる青年はまったくそんなふうには見えない。

 目覚めた時に手近にあったものを適当に身につけたような服装、寝癖のついたボサボサの髪、無骨な黒縁のメガネ――その上、その奥の切れ長な一重の目はずいぶん鋭くて……別に怒ったり、いらついたりしている様子こそないものの、はっきり言って怖かった。

 もし髪をきっちりオールバックに整え、白いスリーピースや光沢のあるダブルのジャケットでも着せて、ミラータイプのサングラスをかけさせたら、道ですれ違う誰からも間違いなく避けられるだろう。
 もちろん私だって絶対に近づかないし。 
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