教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 それなのにこのすてき過ぎるデートコースを用意して、信じられないくらい完璧にエスコートしてくれた。私をなんとか喜ばせようとがんばってくれているのだ。

(ありがとう)

 気恥ずかしさとうれしさに舞い上がりながらも、小さなため息がこぼれてしまう。

 これからのことを思うと、やはり不安だった。
 林太郎さんと手をつないで、キスをして、抱き合って……自分でも驚いたが、そこまではクリアできた。だけど、この先は?

 私の心も身体も、まだあの時のことを忘れていない。もしベッドに入ってから、彼を受け入れられなかったらどうしよう?

「行こう、亜美さん」
「は、はい」

 ルームキーを手にした彼に促され、私はぎこちなく歩き出した。

「ボナノッテ(お休みなさい)」

 ベルボーイの挨拶に会釈を返し、特別フロア専用のエレベーターに乗る。

 クラシカルなデザインやモザイクタイルの床は、ふだんなら歓声を上げたくなるほどかわいらしかった。それなのに二人きりでいることがいたたまれなくて、俯かずにいられない。

 一方の林太郎さんはまったく気後れする様子を見せなかったが――。

「うわっ」

 エレベーターを降りたところで、いきなり転びそうになってしまったのだ。

「林太郎さん?」

 バーガンディのカーペットが敷かれた床には、靴の先が引っかかるような出っ張りやくぼみはない。

 いったい何につまずいたのだろう? それとも夕食のワインに酔ったのだろうか? そんなふうには見えなかったけれど。
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