教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「大丈夫ですか?」
「あ、う、うん」

 林太郎さんは頷いてみせたものの、その顔は少し強ばっていた。

「あ、あれ?」

 さらに突然足を止めて、右手で胸ポケットやズボンのポケットをゴソゴソと探り始めた。

「どうしました?」
「いや、鍵が……」

 本気で慌てているらしく、眉間にシワが寄っている。

「鍵、なくしたかも」
「林太郎さん」

 私は思わず彼の左手に両手を伸ばした。そっと包むようにして持ち上げる。

「鍵はここです。こっちの手にちゃんと持ってます」
「あ」

 安堵したような、まだうろたえているような、それでも強い想いを感じさせる視線。

 私だけじゃなかった。
 林太郎さんもすごく緊張しているのだ、もしかしたら私よりももっと。

「ごめん。俺、なんか慌てて――」

 瞬間、身体が勝手に動いた。
 気づいた時には彼の首に両手を回し、頭を引き寄せるようにしてキスしていた。
< 72 / 128 >

この作品をシェア

pagetop