教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
(……かわいいな)

 薄暗い照明の下でも亜美に視線が吸い寄せられ、思わず苦笑いしてしまう。

 まだ少女の面影があるくせに、時には芯の強さと大人の自信を感じさせる小作りな顔。

 緑溢れるフェリチタ庭園で、その後に訪れた丘の上にあるリストランテで、さらにローマでも指折りのこのホテルの玄関で、彼女が見せた表情が忘れられなかった。

 亜美は俺を見上げ、「どうして?」と言いたげに目をしばたたき、小首を傾げていた。
 それも当然だろう。どこも俺とはまったく縁のない気の利いた場所なのだから。

 だが、俺はどうしても亜美に喜んでほしかった。笑顔を見せてくれていても、いつもほんのわずかに壁みたいなものを感じさせる亜美に。

 だから四日目の昼食後、彼女に時間をもらって電話をかけまくった。

 たまたま話をしたばかりだった高砂百貨店の敬ちゃん、世話になった大学院の教授、スイスの『パージェス』の同僚、それから『東林製薬』の秘書室長――数少ない、けれどもそれなりにパワフルな俺のコネクションを総動員して相談しまくったのだ。

 こんなことは初めてだったせいか、みんなひどく驚いていたが、喜んで協力してくれた。亜実にとって、最高の一日をアレンジするために。

 その結果、俺たちは休園日である庭園を散策し、数ヵ月先まで予約が取れないリストランテやホテルでの時間を満喫できた。
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