教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「亜美、聞いてくれ」

 俺はベッドに腰かけ、亜美の髪を撫でた。

「何?」
「俺は今日、スイスに戻る。あっちでいろいろやらないといけないことができたんだ」

 亜美が驚いたように目を見開く。その瞳が不安そうに揺れた気がして、俺は急いで言い足した。

「心配しなくていい。今後の予定が少し変わりそうだから、ちゃんと調整してくる」
「……そうなの?」

 亜美がブランケットで胸元を隠しながら、ゆっくり身を起こした。俺の言い方が中途半端だったせいで、かえって心配になったらしい。

「大丈夫だ、亜美」

 俺は華奢な両肩を抱いて、頷いてみせた。

 そろそろ事実を伝えるべきだろう。
 別に隠していたわけではないが、亜実は俺のバックグラウンドをほとんど知らないのだから。

「俺の家の話、君にはまだしていなかったな」
「高砂先輩は薬屋さんだって……おっしゃっていましたけど」
「薬屋か。なるほど。確かに薬を作っているからな」

 俺は軽く息を吸った。

 東林製薬株式会社は日本のトップ企業のひとつだ。
 俺がその跡継ぎだと知ると、周囲の反応はそれまでとは微妙に変わる。

 ローマで働く亜美にとって、本来なら俺は客のひとりに過ぎないはずだった。だから敬ちゃんもはっきりとは伝えなかったのだろう。
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