教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 ただの客であれば、俺がどこの誰であろうと、彼女は心をこめて対応してくれたはずだ。好みやTPOを考慮し、必ず一番似合う服を選んでくれるに違いない。
 だが、二人の関係が大きく変わった今はどう反応するだろう?

「東林製薬を知っているか?」
「ええ、もちろん」
「父は東林の社長をしている」

 なるべくさりげなく話そうとしているのに、わずかに声が上擦った。

「俺は……跡継ぎだから、日本に帰れば副社長に就任する」

 亜美は何も言わなかった。ただ、ずいぶん驚いたらしく目を見開いている。

 俺はその体を引き寄せ、柔らかく抱き締めた。

「明治時代に初代の林作が薬売りを始めて、それが今の会社になった。俺で六代目になる」

 彼女の気持ちはわかる気がした。結婚するつもりの相手にいきなりこんなことを言われたら、やはり動揺するだろう。

 それでも俺は俺だし、たとえ副社長になっても、今までと何も変わらないと伝えたかった。

「亜美、俺は二週間、いや、十日でローマに戻る。君を迎えに来る」
「林太郎さん」
「それからこの先のことをゆっくり相談しよう。君の仕事や結婚の準備や、考えなければいけないことがいろいろあるから」

 仕事以外でこんなにしゃべることはあまりない。
 けれど俺が言いたいことは、ちゃんと亜美に伝わっているだろうか?
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