教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 事業展開に関わる大切な見合いを断った時点で、俺が今までのようにスイスで研究を続けるのは難しくなった。

 もう好き勝手はできない。父が言っていたように日本に帰り、今後は経営者として会社を支えなければならないだろう。

 そのためには仕事をきちんと整理し、仲間に引き継いで、帰国の準備を進めなければならない。
 同時に、亜美との結婚も父に認めてもらわなければ。もちろん彼女のご両親にも。

「それでいいか?」

 俺の妻になれば、ライフスタイルも多少変わるかもしれない。
 しかし彼女に何かを押しつけたり、強要したりするつもりはなかった。

 俺は二人で一緒に歩いていきたいだけだ。それをわかってほしかった。

「俺を待っていてくれるか?」
「ええ」

 彼女は俺と視線を合わせ、しっかり頷いてくれた。

「林太郎さんを待っています、もちろん」

 窓から光が差し込み、部屋の中が少しずつ明るくなっていく。

 腕の中の亜美は金の粉をまぶしたように見えた。優しく微笑む姿は美術館で見た聖母のようで、なんだかまぶしかったのだ。

 亜美も心を決めてくれた――そう思うと、堪えきれなくなって、唇を合わせずにいられなくなった。
 結婚までにはいろいろあるだろうが、これでもう安心だ。

(大丈夫。大丈夫だ)

 俺は自分に言い聞かせながら、愛らしい唇を貪り続ける。

 何もかも順調なはずなのに、どういうわけか安心できなくて、そんな自分をなんとか落ち着かせたかったのだ。
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